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第7話

「どうして…こんな事…っ……」 穂はわなわなと震えながら義父に訊ねた。 やはり、穂を嫁として快く思っていないということなのだろうか。 だからこんなセクシャルハラスメント(嫌がらせ)をしてくるのだろうか。 それならそれで口ではっきりと言って欲しかった。 まだその方が潔く傷つくことができるし、穂だって何かしら対応ができたかもしれない。 よりによって穂が記憶を飛ばしている間にこんな事をするなんて卑怯だし、非道すぎる。 紳士的で理解力があって優しい人だと信じていたのに… 清高のためにとあれこれ思い悩んでいた自分が惨めになってくる。 穂は喉を詰まらせると唇を噛みしめた。 これ以上好き勝手にされたくない!! 穂は強張る身体に叱咤して服を搔き集めると、立ち上がろうとした。 しかしアルコールが残っているせいか、足に全く力が入らない。 しかも股座(またぐら)を濡らしていた酒が床を更に濡らし、それがつるつると滑って上手く立てないのだ。 それでもなんとかその場から離れようと無様にもがいていると、義父に易々と引き戻されてしまった。 「こらこらどこに逃げる気だい?ここは君の家だろう。それに、こういうもてなしをするのも嫁の大事な務めじゃないのかな?ん?」 挙げ句軽口を叩かれて穂の頭にかぁっと血が上る。 「やめてください!!実の息子の結婚相手(パートナー)にこんな事をして許されると思ってるんですか?!」 穂は持っていた服を義父に向かって投げつけた。 昼間までの義父の態度や洗面所での事など、とにかく情報がこんがらがって頭の中はぐちゃぐちゃで、惑乱を通り越して大パニックを起こしている。 体裁とか立場とか、そんなものを全て忘れて穂は一人必死になって抵抗した。 しかし穂からの仕打ちを気にも留めず義父は至って落ち着き払っている。 「どうやら君は勘違いをしているみたいだね。これは穂くん、君のためでもあるんだよ」 「仰ってる意味がわかりません!」 穂は精一杯批難の眼差しを向けた。   穂のために必要な嫌がらせがあるというのだろうか? 「知っているかい?人の身体というのは不思議なものでねぇ。妊娠というのはどうやら女性だけができるものでもないらしんだよ」 義父の言葉に穂は眉を寄せて聞き返す。 「…え?…にんしん…?」 「穂くんは子どもが欲しいと思ったことはないかい?もちろん清高との子どもだよ」 「考えたことは何度もありますけど…そ、そんなの…どうやったって無理に決まってるじゃないですか」 どうして今そんな事を訊いてくるのか理由が全くわからず、穂は更に眉間のしわを深くさせた。 「僕と妻はね、清高の子ども…つまり孫をこの手に抱く事をずっと楽しみにしてたんだ」 「え?」 「あぁ、勘違いしないでくれ。何も君が男である事を否定しているわけじゃないから。もちろん妻もそう思ってるよ。ただね、清高はあんな感じで留守が多いだろう?そんなを夫夫生活じゃあできるものもできないんじゃないかなぁとそればっかりが気がかりでねぇ」 子ども…孫… まさかそんな事を本気で思っているのだろうか? 穂は信じられないという面持ちで義父を見た。 しかし、その目も表情も決して冗談を言っているようなものには見えない。 「もしかして君は望んでいないんじゃないのかなって心配だったんだけど…さっきの洗面所で見つけたアレを見て確信したよ。君もちゃんと妊娠(それ)を望んでいるってね。だから決めたんだ、僕が全力でサポートしてあげようって」 望んでる?サポート? 穂はますます訳がわからなくなってくる。 この男は何を言っているのだろうか。 「つまり、忙しい息子に代わって僕が君に子種を提供してあげようと思ってるんだよ。清高と僕の遺伝子は一緒な訳だし、時間もたっぷりとある。君が妊娠すれば妻はもちろん清高も喜ぶぞ。みんなが君を尾村家の立派な嫁として認めてくれる」 穂は縋るような気持ちで義父を見つめた。 「嘘…冗談…ですよね?お義父さん、そんなこと言って僕をからかっているんでしょう?」 そんな事を本気で考えている訳がない。 考えるはずがない。 だってこの人は元自衛官で一等陸佐まで階級を上げた男だ。 常識のあるジェントルマンで愛する夫のなはずなのだ。 しかし、そんな願いも虚しく、その男は穂をゆっくり押し倒すと穂の臍下(さいか)を指さした。 「まずは君自身の意識を変えなくてはいけないよ。自分のここに、子を宿す器官があると思いなさい」 至って真面目な表情できっぱりと告げられてぞくりと肌が粟立ち今まで感じたことのないような恐怖を感じた。 この人はおかしい。 男の穂が、思念だけで妊娠できると本気で思い込んでいるのだ。 完全に狂っている。 「あなたはおかしいです…」 震える声で呟くと、義父はにこりと笑って言った。 「おかしい?そうかな?それじゃあ試してみようか。君が孕むまでね」

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