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暗雲たちこめる
その日の朝、アヤは電話で起こされた。画面には支配人の文字。嫌な予感がまたも襲ってくる。
「おはようございます……」
なんとか寝起き丸出しの声を絞り出せば、切羽詰まった様子の支配人。
「大雪で新幹線も飛行機も全滅だ、そっちに戻れなくなってしまった」
窓を開ければ、一面銀世界だった。もう昼近いというのにまだまだ残っているレベルの積雪。このあたりではかなり珍しい。九州はもっと凄いことになっているらしい。
ホテルに電話をしてみると、やはり予想通り出勤不可能なスタッフが続出。奇しくも金曜、予約客は多い。来てくれればその対応に、キャンセル客にはその対応に追われることは必至。その上支配人、副支配人の両方が不在では、まわらないのが目に見えている。
――やっぱり、雪は嫌いだ。
大きく深呼吸をひとつして、アヤはリョウの番号をタップしたが、仕事中で出てはくれない。
こんな報せ、告げたくない。電話とはいえ、どんな顔をして話せばいいのか。どんなにがっかりするだろう。恨みつらみもぶつけられるんだろうな。
……違う。
リョウにがっかりされるのもそうだが、アヤ自身だって会えなくなったことに落胆している。まだ何も、希望のデートプランを聞いていなかった。どんなふうに過ごそうか、会ってから相談すればいいと思っていた。
大きく息を吐いて、アヤは出勤の準備を始めた。
「あ、さっき電話くれたやんな?今昼休みなって気づいてん」
しばらくするとリョウから折り返しの電話がかかってきた。それはそれは嬉しそうな声色だ。
「うん、実は……今日、仕事になって」
重々しく答えると、少しの間返事はかえってこなかった。だがしばらくして
「そっかあ。じゃあいつもみたいに俺留守番の間家ん中掃除したりしとこっか」
「……ごめん、イレギュラーが起こって、帰れるかどうかもわからないし、帰ったらたぶん疲れきってると思う、だから」
「俺、行ったらあかんの……?」
蚊の鳴くようなゆらぎ声が、アヤの心を刺す。
「……ごめん、来週は必ず」
「……うん、わかった。じゃ昼飯食わなあかんから!」
通話終了の表示とともに、ツーツーと無機質な機械音が耳をつんざく。
ひどく聞き慣れない音なのは、いつもアヤから電話を切るからだ。
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