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牡丹雪
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その日一日レオが朝言った言葉をずっと考えていた。考えても考えても好きだという言葉の意味を履き違えることができない。だって彼ははっきりと恋に落ちたと言ったから。
告白されたことなんて今まで生きてきて一度もない。スクールカースト的側面から見ても僕は到底モテるような地位にはいないし、僕からも誰とも関係を持とうとしていなかったのだから当たり前だ。
モテるヤツは息を吸うように努力をしているものなんだと思う。だから尚更思うのだ。なぜ僕なのか。分からない。椿が僕以上に似合う人間なんて他にもっとたくさんいると思うんだけど。あまつさえ、女子の方がずっと映えそうなものだ。
それに……僕は喋れない。
……昼休みはレオから逃げるように図書室に引きこもり遭遇を回避し、六限目が終わったところで、なんかこう勘違いとかそういう類のものなんじゃないかということで落ち着いた。
きっとそうに違いない。そう思ったらやけにスッキリした。爽快な気持ちで家に帰って風呂に入って寝た。
起きたら朝、雪が降っていた。
牡丹雪だ。これは積もる。
雪が降っている朝は、教室でもそれを迷惑がる声が沢山聞こえるが、徒歩通学の僕にはむしろそういう声こそ迷惑なんだ。
僕はいつも履いているスニーカーを靴箱の中にしまって、代わりに雪用のブーツを選んだ。マフラーを巻き、ブーツの紐を丁寧に縛ってミトンの手袋を手につけ、ビニール傘を片手に家の扉を開く。
いってきます、を言えない僕を見送る人は誰もいないけど、雪が降っているからそんなことはどうでもいい。
僕がいってきますを言えなくても、雪は静かに僕のてのひらの上に乗ってくれる。人より雪の方がずっと優しい。
傘の透明なビニール生地越しに、深々と乳白色の空から降ってくる雪を眺めて歩いた。早朝だから車通りも人通りも無いので前なんてそこまで見なくなって平気だ。
街灯の明かりはまだほんの少し明るいと思えるような薄暗さが僕の心を死んだように静かにさせてくれる。この感じが心地いい。
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