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おはよう

 通学路をそんな気持ちで歩いていた。  心の中では歌を口ずさむような心地よさだった。  高校に着く前の最後の曲がり角で、傘を差した人影を認めた。早朝の、しかもこんな雪の降っている朝に誰かに会うなど嘘のようだ。僕は高校に着くまでだいたい誰とも会うことはない。そういう時間をあえて選んでいるのに。  その人物は僕を認めると、凍ったような真顔を一瞬にして笑顔に変えた。  レオだった。 「おはよう、ルカ」  レオは息を吸うように言った。  僕は彼の言葉に答えることができない。  心はいろんな意味で複雑だった。でも無視して通り過ぎるほどの意気地もなく、なんとも言えない顔で立ちすくんでいた。 「ルカを待ってたんだ。家は知らないけど……朝早く来るといつも同じ足跡が雪についていたから……ルカかな、ルカだといいな、って待ってた」  この人はいつでも直球だ。  朝から当てのない賭けをしてまで僕を待っていたということらしい。何時に来るかも分からない僕のことを。この道を通るかなんて不確かな僕のことを。  雪の降りしきるこの寒空の下ずっと待っていたらしい。いつから。どれくらい待っていたの?  彼の鼻や頬の赤さや、少し雪の凍り付いた彼のシンプルな深緑の傘の生地を見れば、決して短くはない時間同じ場所に立っていたことは明白だ。なにより。  なにより彼の立っている場所の積雪の少なさが、彼がそこで僕を待ち続けていた時間の長さを教えてくれている。  傘を持つ指先も、雪の上に立っている足先も、きっと凍えるほどに寒かったに違いないのに。 「だから来てくれて嬉しい、一緒に行こう」  彼は僕が来ただけでこんなに幸せな顔をする。  僕を待っていて、なんて僕はこれっぽっちもお願いしていないけど、レオのそんな姿を見てなにかを思わずにはいられなかった。余計なお世話だと突っぱねることなど到底できない。  なんだか泣きそうな気持ちで彼を見上げていた。  レオは僕に向かって手を伸ばしてきた。僕が手を取るのをずっと待っている。  直球なくせに全然強引じゃない。先日みたいに僕の肩を掴んで引っ張ることだって簡単にできるはずなのに、切ないくらいに僕の気持ちを尊重してくれている。この人は僕が嫌だと言ったら残念だと素直に言いながら簡単に一人で歩き出すに違いない。

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