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チョロい
「……ルカ?」
彼を見上げたまま動こうとしない僕に疑問を持ったのか、彼は不思議そうに僕を見下ろして首を傾げる。
彼は素手だった。白い手が赤くなっている。
傘を肩に乗せて、僕はミトンの手袋を外す。差し出された手を両手で包み込んだ。
雪がふりしきっている。
白い吐息の向こう側で、レオが驚いたように目を見開いていた。目を閉じて彼の手の冷たさを感じる。酷く冷たい。
冬だ。
言葉で労うことができない僕の精一杯の労いだった。彼がどう思ったのか分からない。伝えたい言葉は選ぶことができないほど沢山あるのに、僕はその中のたった一つでさえも彼に伝えることができない。
こんなにもどかしい気持ちになったのは初めてだった。
「温かい」
レオが照れ臭そうに笑う。僕は泣きそうになりながら笑った。
「今すごくルカを抱きしめたい」
彼は僕を優しく引き寄せると、耳元で囁くように言う。僕は耳まで真っ赤になった。レオと目が合う。レオの雪の結晶を詰め込んだように綺麗な瞳が揺れる。
「抱きしめさせて……?」
僕はぎゅっと目を瞑ってわずかに頷いた。
彼のもう一方の手が僕の腰に回ってくる。レオの匂いに包まれた瞬間、僕の視界は彼のコートの色で埋まった。
僕の傘がゆっくりと揺蕩うように雪の上に落ちて静かに音を立てた。両手をすり抜けた彼の手が僕の頭を引き寄せてぎゅ、体を包み込む。
周りの雪が溶けそうなくらい身体中が熱くなり、体の力は一秒ごとに彼に奪われていくようだった。どきどきして視界がぐらぐらする。
「ルカ……大好き。ルカのこともっと知りたいよ」
彼の好きは勘違いとかそういう類のものじゃなかった。僕はもう彼の好きを騒がしいとは思わない。まだよく分からないけど。
だけど嫌じゃない。そうこれだけは確か。
チョロいかな。チョロくてもいい。僕は本当に久しぶりに僕以外の人間の体温を感じた。
冬だということを忘れてしまうくらい温かい。
彼の肩口へ落ちる花のような雪を眺めながら僕もレオのことが知りたいとつい思ってしまったんだ。いいかな。いいよね、少しくらい。
きっと彼もいつか喋れない僕を退屈だ、面倒だと思う日が来るだろう。そう遠くない未来で必ず飽きるに違いない。でもそれまでは普通の人間みたいに誰かと繋がっても、いいのかな。
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