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眠り姫

 *.○。・.: * .。○・。.。:*  僕は冬は好きだけど、冬の行事は大嫌いだった。冬休み前に、僕の高校ではなぜが学芸会をする。それも四クラスあるうちの二クラスがチームになって行うのだ。題材はどちらも同じで、各チームが面白い創意工夫を凝らしてアレンジする。  かなり本格的で年末の劇合戦といったところだ。  隣のクラスと一緒に六十人くらいを収容できる大教室に入る。僕は目立たないように奥の一番端に座った。頬杖をついて窓の向こうで降り積もる雪を眺めていた。  しばらくして女子たちと一緒にレオも教室に入ってきた。僕は若干動揺する。見ないふりをしながらもちらちら彼を見ずにはいられない。  レオは女子に囲まれて微笑んでいる。談笑をしている。会話をしている。隣には鳥口が絶対にポジションを譲らないという強固な姿勢で寄り添っていた。  一瞬レオと目が合った。彼は僕に向かって誰にも気づかれないように目配せする。鳥口も僕の方を見た。彼女にはここ数日なぜかマウントを取られているような気がする。なぜだ。  レオは鳥口に引き摺られて前の方の席に座った。女子との会話は途切れない。  喋るな。喋るなよ。喋るな。  僕は目を細めたあと、もう一度窓の方を向く。  ばかみたい。  全員が揃ったところで、各学級委員長が前に立って劇についての話し合いが始まった。  黒板に書かれた文字を見る。 『眠り姫』。  この話は知っている。皿が一枚足りなかっただけで百年も魔法をかけられてしまった情けない王族とラッキーすぎる王子の話だ。  去年僕は美術に回った。今年もそのつもりでいた。結構本格的なのだ。だけどその美術もコミュニケーションがうまくいかないとちっとも円滑に進まない。本当に気分が悪かった。これからのことを思うとうんざりしたしずる休みしたくて仕方ない。  クラスでは今、眠り姫を一体どうやってアレンジしようかということで盛り上がっている。僕も普通だったらきっと楽しい時間になったのかもしれない。手を挙げて意見なんか言ったりして。笑止。勝手にしてほしい。  窓の外をじっと見ていたら、なんだか眠くなってきた。 「王子様は絶対レオくんがいいと思います。王子っぽいし日本語も流暢だし」  いつの間にか配役の話になっていたらしい。名前が耳に引っかかって現実に戻された。女子の声は賛同していたが男子の声は複雑な感じだった。事の成り行きが面白そうだったので、僕は少しこの話し合いに興味を持った。  

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