14 / 66
普通にいいやつだな
レオは弾むような声で言った。
「もしルカが姫をやるなら俺は王子をやる。そうじゃないならやらない」
そして笑った。
「マミコ、早く進めて」
空気が張り詰める。
鳥口が遠く離れた僕に向かって複雑な顔をして言った。
「浅見くん、姫役でいい……?」
僕は首を横に振ろうと思った。絶対無理。だけど、僕は重圧に耐えられなかった。
こくり、とゆっくり頷くと、黄色い声と一緒に気分が悪くなりそうな空気が僕を包み込んで窒息しそうだった。色んな感情で淀んでいるけど、たった一人レオだけは嬉しそうだった。
今年の冬は、死ぬまで忘れられない冬になりそう。
*.○。・.: * .。○・。.。:*
放課後になった途端、レオが僕を迎えに来た。
「ルカ、一緒に帰ろう」
僕は悠々と僕の前にやってきた彼を見上げる。ちょっと悪意を込めた。レオ、君というやつは……僕を尊重したり、僕を巻き込んだり、やっぱり騒がしいやつだ。少しでもいいやつだなと思ったけど取り消しだ、取り消し! と、僕は心の中で呟く。
そんな僕の思いなど一ミリも伝わっていないだろう彼は、僕のジト目に対してにこにこ笑うだけだった。
レオは一人だけで、朝に会った時と同じ格好をしていた。本当に一緒に帰る気らしい。とんでもない。一人で帰れこの野郎。そう思った矢先鳥口がレオの後を追ってやってきた。
「レオくん! まさか帰るつもり? 台本は、どうするの? 決まらないとどうしようもないの」
あー、とレオは苦い笑いをこぼして僕に目配せした。僕はどき、とする。
まるでお互いに秘密を共有したみたいだったから。
「原作通りでいいと思う」
レオはいつもの調子で鳥口に言う。
「でも彼は喋れないじゃない」
鳥口は少しも遠慮なく僕を指差してそう言った。
言葉に棘がないと言ったら嘘になるけれど、別に悪い気はしなかった。影でこそこそ言われるよりも、当たり前のことのように扱われる方がずっといい。普通にいいやつだな鳥口。
ともだちにシェアしよう!