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ミルクたっぷりでお願いします
「これからそのことについて彼と話し合うことにする」
レオは僕の手を掴むと、行こう、と言って僕を引っ張った。待っても嫌だも言えない僕は引き摺られるようにして教室を出る。帰り支度を整えておいてよかった。
「今マミコのこと好きって思ったでしょ」
足早に廊下を歩く彼が振り返らずに僕に言う。当然のように無言の僕に対してちら、と彼が拗ねたような顔を僕に向けたので、僕はその瞬間の逃さないように首を横に振った。
「うそ、すぐ分かったよ。ルカ。いいな、って思ったでしょ」
まあ悪い気はしなかったよ。なんとも言えない顔をしていたら、彼は僕を振り返って真っ赤な顔をして言った。
「俺はルカの王子さまなんだから、俺だけ見てないと駄目でしょ」
通り過ぎた生徒の何人かが僕たちをちらちら見てなにも言わずに通り過ぎていく。ちょっと恥ずかしいからやめて欲しかったけど力が強くてどうにもならない。っていうか。
レオが勝手にそうしたんでしょ。僕はなにも言えない代わりに頬を片方だけ膨らませて彼を見上げる。それに今は役柄は関係ないから。
しばらく二人で睨み合っていたが、そのうちレオがふい、と視線をそらしてしまった。悪びれた様子で、子どものような拗ねた表情をしている。頬は冬の空気に触れたように真っ赤だった。
「ごめん、そうじゃない。そういう言い方は間違いで、その……俺のお姫さまはルカがよかったということ」
この人本当に日本語が流暢だ。なんで文字を読むことに苦労するのか分からない。
「許して。巻き込んでごめん。でもルカ以外と目覚めのキスはしたくない」
目覚めのキスの部分は台本でカットしよう。その話をこれからしよう。
「とりあえず話し合おう……?」
そうしよう。僕は頷いた。
正直人通りのある廊下で話していい言葉じゃないんだぞレオ。左からきた君には分からないかもしれないけどね。あまつさえ男同士が手を取ってキスなんて言葉口にしないからね。みんな聞き耳立ててるよ。僕は燃えて灰になりたいくらいに恥ずかしいんだよ。
でも僕たち一体どうやって話し合おうか。
とりあえず上履きを脱いで僕は今朝履いてきたブーツに履き替えた。ブーツを履く僕を照れ臭そうに待った後、レオは僕に向かって言った。
「コーヒーでもどう? ご馳走するよ」
望むところだ。ミルクたっぷりでお願いします。
僕は濡れた傘を忘れずに手にとって、彼の後ろを控えめについていく。
朝にあれ程深々と降っていた牡丹雪は、昼過ぎの晴れ間に茹でられたあと、夕刻の冷たい北風を浴びて凍り始めていた。明日の路面はつるつる滑るに違いない。タイヤや足跡の轍も美しくて僕は好きだ。素肌のままで転ぶと軽い怪我では済まされないスリリングな感じも悪くない。
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