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チリカタ
僕たちは初め一列のような感じで同じ通学路を歩いていた。
不意にレオが足を止め、僕たちは横に並んで歩き始める。その頃には、周囲に人影もなくなって落ち着いていた。
「こっちから行こう。見せたいものがあるんだ」
レオはさっきの小さな諍いなどすっかり忘れてしまったかのような朗らかさで僕に言った。少し歩いたところで小径に入った。近所なのに入ったことのない道だったけどとりあえずついていくことにした。レオは騒がしいけれど悪い人ではないから。
車道とも歩道ともつかない狭い道にも関わらず積もった雪のせいで尚更圧迫感があった。
でも僕は案外こういう道が好きかもしれない。
レオは僕を見やって笑った後、嬉しそうに指をさす。
「ルカ、見て、椿。ルカが教えてくれた花」
誰かの家の軒先に、真っ赤な花が乱れるように咲き誇っていた。
学校の植木とは比べ物にならないほどに立派だった。レオの背の高さを易々と凌駕する。僕は思わず口を開けてそれを眺めてしまった。
花は確かに美しい。
僕は花の根元を見た。雪にまみれて花びらが金魚のように散っている。それを手ですくって拾い上げた。
彼に向かって首を横に振る。
花びらごと雪を丸めて手袋を外す。花びらの混ざった雪玉を手で摘んで、また塀に文字を書いた。
「ちがう」
「違う? 何が?」
「さざんか」
「サザンカ?」
「はなのなまえ」
「違う花なの? そっくりだけど……」
僕は頷く。
「ちりかたがちがう」
「チリカタってなに?」
小鳥のように首を傾げるレオに、僕はどんな風に説明すればよいのか分からなかった。文字だけじゃ伝えられない。上手く書けない。余白が足りない。
もどかしい。
この前までは単語だけの会話だけでもとても楽しくて満足している自分がいたはずなのに、もうそれだけじゃ満足できなくなっている。さもしいな。
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