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 僕の手の中で山茶花の散った花びらと一緒に雪玉が弾ける。  僕たちこれから話し合いなんてできるの? できるわけないじゃん。  だって僕は喋れないんだ。レオだって分かっているはずだ。それなのになんでレオはさも当然と鳥口に「話し合いをする」なんて言えたんだろう?  もしかして……僕のことをおちょくっているのか。彼は、本当は僕と話し合いをする気なんてさらさらないのかもしれない。  だってそもそもできないんだから。  僕は彼に花の散り方すら教えてあげることができない。  あーあ、声が出ればなあ。僕ってなんで声が出ないんだろう。  僕の声はどこに行ったんだろ。僕は最初から人間なので魔女と契約して自分の声と引き換えに人間の脚を手に入れたわけもないし。なんでだよ。  声帯はある。口から呼吸もできるのに。どうして声が出ない。  どうして。  口を大きく開けてみた。  彼に向かって言ってみる。 『椿は花ごと落ちるんだよ、山茶花は花びらから散るんだよ』。 「……、……っ……、……!」。  ……どうして。  レオがやるせない顔で僕を見下ろしていた。僕は自分が情けなくて思わずその場にしゃがみこむ。手持ち無沙汰になって山茶花の赤い花びらを一枚一枚摘んで手のひらに乗せた。  気がついたら、レオが僕を抱きしめている。  吐息が耳元でこそばゆい。彼の吐いた息が目の前で白い結晶になった。 「漢字を覚えるから、もっと文字が読めるように勉強するから。ごめんね、そんな悲しい顔をさせてしまったのは俺の知識不足のせいだ。ルカはなにも悪くないから……お願い……ルカと話がしたいから」  その後彼はぼそ、っと、ジショ、と言った。 「辞書は引けるし、きっと読める」  ううん、僕は。  僕はレオと本当の会話がしたい。  辞書なんか要らない、文字なんか要らない。数十秒で思いが伝わる会話がしたい。そうしたら大体全部うまくいっていたはずだ。眠り姫はやりたくないって大きな声で言えたかもしれない。廊下で手を取ってキスとか言うな、とレオを諌められたかもしれない。  レオはどうして僕が好きなのって簡単に聞けたかもしれない。どうして僕なの。もっと可愛い女の子も素敵な人もたくさんいるでしょ。選び放題なのに。  なんで僕なの、って。  もっと簡単に僕の気持ちを彼に伝えることができたかもしれない。  

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