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どうか綺麗でありますように

 優しさが苦しい。我儘だと分かっているけど、レオに八つ当たりしたって仕方がないことだって薄々分かっているけれど。  僕がレオを跳ね除けたのはレオが嫌いだからじゃないよ。  椿と山茶花の違いすら教えてあげることができない僕が嫌いだからだよ。  一緒に綺麗だねって気持ちを共有できない僕が大嫌いだからだよ。  仮に喋ることができたって本当の気持ちを伝えることはとても難しいことなのに、声すらかけることができないんだから僕の思いは届くわけがない。  誤解されてもいい。僕はこんなに惨めな自分がどうしても耐えられなかった。  目から溢れる涙を見られたくなくて、僕は足早にレオの傍から立ち去る。ルカ、と僕の名前を彼が呼ぶ。  僕もレオの名前を言いたかった。  *.○。・.: * .。○・。.。:*  僕は高校生でそれなりにこじらせているのでレオの前から逃げ出した後、感傷に浸りながら界隈をぶらぶらしていたら清々しいほどに風邪を引いた。  それで三日くらい高校を休む羽目になった。随分最悪なタイミングだなと思いながら、寝ることにも飽き、でも本を読むくらいの元気のない僕はずっと窓辺から降る雪を眺めていた。  部屋と外の温度差で、窓は美しく結露していた。火照る体が漠然と冷たさを求めて自然と窓を開けていた。瞬間理不尽なほどに冷たい北風が一瞬にして部屋の生温い空気を入れ替える。悪寒がしたが、僕は窓から身を乗り出した。  そっと窓辺から手を伸ばすと、ふわふわしている雪が僕の手のひらに落ちる。なんの警戒心もない無防備な雪は、体温の高い僕の手のひらですぐに溶けて水になった。水は自分の流れていた場所を覚えているらしい。水が雪となり結晶となった時、形は水だった時に流れていた場所によって変わる。綺麗な水は綺麗な結晶となり、汚い水は出来損ないの結晶となる。  僕の手のひらに落ちた雪が、次に雪になって空から降ってくる時に、どうか綺麗でありますように。僕の作った雪だるまもまた綺麗な雪の結晶になって僕の街に降り注ぎますように。  なんてね。  僕の雪だるまは元気にしているだろうか。それからついでに僕の雪だるまの隣のイケメン三段雪だるまも元気にしているだろうか。その隣の雪うさぎも……。  ……レオ。    

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