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ルカへ

『ルカへ  ルカの言いたかった「ちりかた」というのは、散り方のことですね。椿は花ごと落ちます。山茶花は花びらが散ります。祖母に聞きました。  花によって述語が違うのはおもしろいですね。椿は落ちる、山茶花は散る、朝顔はしぼむ、梅はこぼれる。綺麗な言葉だと思います。ルカにこそふさわしい言葉ですね。  祖母にルカの話をしました。そうしたら、この便せんと封筒をくれました。祖母はこの便せんにいつも消しゴムで作ったハンコを押すそうです。  私はハンコを作ることができないのでそのままです。とても綺麗な紙だから、このままでもいいかなと思いました。言い訳ではありません。  どこかおかしな文章があったら、教えてください。  レオより』  真っ先に浮かんだ感想が「可愛い」だった。  あんなに眉目秀麗な彼がこんな文字を書くのが可愛すぎる。可愛い以外の言葉が思うように見つからないせいで内容が入ってきたのは三度目の通読の後だった。  手紙になると一人称が「私」になって、言葉も敬語になるのも可愛い。話しているレオとは随分かけ離れた姿に、なぜが胸がほっこりしてしまう。  それに……漢字も片仮名もきちんと使えているし、おかしい文章も見当たらない。先日まではひらがなしか読めないと言っていたのに……こんなに長い文章を書くために、彼は一体どれほどの時間を要したのだろうか。  僕は興味半分、恐れ半分で二通目の手紙を手に取った。 『ルカへ  ルカが今日高校を休んだことが、すごく寂しかったです。明日は来ることを願って、今手紙を書いています。  どうして休んだのですか。靴箱にあなたの靴がなかったので、休みだということは分かりました。こういうとき靴を履きかえる文化は便利ですね。  私はルカとクラスが違うので、休んだ理由を聞くことができませんでした。マミコに聞いたけれど、彼女は教えてくれませんでした。彼女はそれよりも、劇のお姫さま役をどうするかということに夢中です。脚本も進まないし、練習もできないので、ルカは役を降りたほうがいいと言うのです。どう思いますか。  ルカはそもそも、お姫さまをやりたいと思っていないのですよね。私が無理矢理押し付けました。だからルカがやりたくないというのなら、私は止めることができません。  もしルカがやらなければ、マミコがやることになると思います。  ルカに会いたいです。  また花の散りかたを教えてください。ルカの作った雪だるまが見たいです。  明日はきっと、来てくれるよね。  待っています。  レオより』

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