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公開処刑
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ふと時間を見たら、五限目が始まって半分が過ぎようとしていた。僕は大教室の後ろからこっそり中に入った。つもりだった。
鳥口が扉を慎重に開ける小さな音を聞き取って視線を向けた。この人の神経は研ぎ澄まされている。超能力でも使えるのか?
教室の後方では小道具を作っている生徒が各々に仕事をしていた。鳥口は教室の前の方に役者を務める生徒たちといる。台本を合わせている途中だったようだ。脚本は完成したのか。彼女の隣には当然だというようにレオの姿がある。
胃が雑巾を絞ったようにキリキリと痛んだ。
苦しい。辛い。もう逃げたい。
「あ、浅見くん」
勿体ぶった言い方だった。教室にいる全員が僕の方を向いた。レオ以外を除いては。
レオは雪が降る寸前の重く垂れる曇り空のような顔をして横の方を向いていた。
鳥口は立ち上がると、ゆっくり僕の方へ向かっていく。視線が痛い。お腹も痛い。
わざとだ。鳥口は生徒が僕に注目するようにわざと勿体ぶって歩いてくる。
「遅かったね。なにしてたの?」
鳥口が僕に尋ねる。彼女は僕を公開処刑にかける気だ。ほんと酷いやつ。なにを答えても僕は彼女によってネガティブな印象操作をされるに違いない。そもそも喋れない僕に対してその質問は随分残酷じゃないか。
僕は鳥口に何か酷いことをしたのか?
彼女はとりとめのないことを吹き飛ばすように笑って続ける。
「まあいいよ。浅見くんは美術ね……手が足りないところはある?」
美術担当の生徒に向かって鳥口が声を張った。
どこの班も手を挙げない。
僕は要らないと告げられていることと同義だった。視線がナイフみたいに突き刺さる。空気からは酸素が奪われたように呼吸が上手くできなくなっていった。
もう嫌だ。やっぱり一人がいい。一人の方がずっといい。ずっとずっとずっといい。
内側に閉じこもりそうになった。それでいいのか? ……ダメだ。
……レオ。
僕は歯を食いしばる。目を合わせられなくたっていい。そっぽを向かれてもいい。僕は。僕は彼に最高の思い出を与えたい。やる気めっちゃある。
そう、もう僕最高にやる気なんだぞ……!
ブレザーの袖に隠れた両手をぎゅっと握る。ばくばくして飛び出そうな心臓を押さえつけて、僕は鳥口を見た。目が合う。真剣に彼女を見つめる。
勢いに任せて腕を掴んだ。彼女が軽く悲鳴をあげる。ちょっと来て、と言えないんだから、引っ張るしかない。
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