30 / 66

エミリとアイリ

 エミリはよろしくね、と言ってくれた。すごく落ち着いていて優しい大人の声だった。エミリの隣にはもう一人女生徒が座っている。  多分アイリという女生徒なのだと思う。僕はよろしく、と頭を下げようとして顔をまじまじ見てしまった。アイリは髪を二つ結びにしていて眼鏡も掛けていないけれど、エミリと雰囲気がまるで同じだった。  僕の反応を見て、二人は同時に全く同じ声で笑う。 「驚かないで」 「私たち双子なの」  どっちがどっちなのか眼鏡を外されたら分からない。  僕の反応で、エミリとアイリは顔を見合わせた。 「私たちのこと知らない?」  知らない。うん、と頷く。 「双子って目立つのに……知らないのあなたくらいよ。ねえアイリ」 「そうね。まあいいわ……でも私はあなたのこと、少し気になっていたの」  なんでやねん。首を傾げる。 「だって、ねえ」  アイリがエミリの方を向いて笑う。 「あのマミコがすごく気にしてる男の子だから」  二人は息を合わせて、囁くような声で僕に囁いた。  僕は思った。  知るか。  まだ衣装になっていない大きな布を指差す。彼女たちは僕をみる。  僕は断ち切りばさみをとって、シャキシャキとそれを鳴らした。  裁断しようか、と伝えたつもりだ。  僕のボディランゲエジは成功したみたいだった。  エミリが首を横に振る。 「まだよ。型紙からなのよ、デザインは決まったんだけど」 「こういう感じ」  アイリがラフスケッチを僕に見せてくれた。  ピンクの薔薇の花びらみたいに綺麗なドレス。これを作るのは骨が折れそうだった。  それに姫のものは決まったみたいだけど、王子の衣装は決まっていないらしい。  確かに二人じゃどうにもならなさそう。  僕は頷いてブレザーを脱いだ。  鉛筆をとって二人にこくり、と頷きかける。ガッツポーズをした。頑張ろう、って言ったつもり。  彼女たちは笑って言った。 「頑張りましょう」  あれ……僕、会話できるじゃん。

ともだちにシェアしよう!