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可愛い人たち

 レオとは一週間口も聞いていない。  校舎裏の花壇には僕以外の誰かが来た形跡はなくなってしまった。もともとあそこは僕一人の砦だった。僕が僕を守るための小さな小さな砦だったのだ。  だからレオが来なくなった現実をむしろ喜ぶべきなのに僕の心は一向に晴れない。  一週間で椿も随分落ちてしまった。僕はその一つ一つを手のひらで掬って花壇に並べた。  朽ちた花の匂いを嗅いで虚しい気持ちになる。  雪だるまは死んでしまったので、また新しく雪だるまを拵えた。雪は無尽蔵と思われるほどに降り続いていた。  僕は伏し目でレオの姿を見た。体操服を着て、熱心に台本を持ちながら練習している。体操服でも彼はキラキラ輝いていた。それに負けず劣らず鳥口も美しい。  これでいいんだよね。  うん。これでいい。  左手の指先に信じられない痛みが走って、掴んでいた布が刺繍枠ごと音を立てて落ちた。指に針が思い切り刺さったらしい。何人かは僕がいる方を振り返り、何人かは気にも留めない。普通の反応にホッと胸を撫で下ろしながら刺繍枠を拾い上げた。 「大丈夫?」  エミリとアイリが口を揃えて僕を心配してくれる。  僕は血の出た指を見せて苦笑した。  まあ、と二人は息を呑む。  僕は針を持っていた手を鉛筆に持ち替えて、彼女たちに言葉を書いた。 『絆創膏もらってくる。衣装に血が付くといけないから』  僕が立ち上がると、彼女たちも立ち上がった。 「それなら私たちも行くわ」  僕は遠慮した。でも彼女たちは首を横に振る。 「喋れる人がいた方が何かと便利じゃない?」  だったら一人でいいんだけど。  面倒だったので、口でお願い、と形を作った。  彼女たちは顔を見合わせて笑う。可愛い人。可愛い人たち。ずっと二人で生きていくのかな。  いいな。僕も。  僕も誰かと一緒に生きたいな、なんて高望みかな。  見えるところにレオがいるのに、今はこんなに遠い。  僕は未練を掻き消す。  僕は僕にできることをやるだけだ。  

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