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泣いてねえよ
大教室は四階で保健室は一階だ。正直付いて着てくれるのはありがたいが如何せん気まずい。エミリとアイリとは手芸や衣装の話しかしていないし、彼女が何に興味があるのかも興味ない。
僕はそもそも喋れないしそんなこと気にする必要もないかと開き直って大教室の扉を閉めた。二、三歩歩いたところで、ねえ、と彼女たちのどちらかが僕を呼びかける。
まるでこれから秘密の話をするような呼び止め方だった。なんとなく嫌な気分になりながらも平然と彼女たちに向かって首をかしげる。
彼女たちは受け入れられたと思ったのか、僕を間に挟んで歩き出した。
授業中の廊下は静かだ。後ろ手に組んだエミリとアイリは、僕にしか聞こえないような静かな声で言う。
「レオくんと何かあったの?」
「イエス、オア、ノーでいいわ」
なんで彼女たちに言わなきゃないんだよ。
答えはノーだ。首を横に振る。
「先々週あたりからギクシャクしてない? 前はあんなにレオくんに好かれてたのに?」
「側から見てても分かる」
分かった。エミリとアイリは僕にそれを聞きたかったんだ。
最悪だ。
「レオくんがめっきりあなたに執着しなくなった」
「一週間前から」
「前はあんなにマミコを邪険に扱ってたのに」
「今はすごく大人しいのよ」
「しかもあなたの話題を露骨に避けるの」
「昨日鎌をかけたのよ」
「『浅見くんと何かあったの?』って」
もううるさい。
僕は足を止めた。二、三歩前に進んだ彼女たちが僕を振り返る。僕は彼女たちを思い切り睨みつけた。
噂話がご所望なら他を当たってくれ。
正直僕だって分からないんだ。色々なことが。
レオのことは好きだよ。好きだって思った次の瞬間には嫌われてたんだよ。僕の気持ちを認めたしょうもないレポート用紙もどっか行ったしさ。
僕の砦は僕たちの砦になり始めていたのに。僕でもない、彼でもない誰かが僕たちの思い出をめちゃくちゃにして殺したんだよ。
僕は声が出ないので、拳を思い切り握り込んで歯を食いしばる。
エミリとアイリは顔色を変えた。
「ごめんなさい、繊細なことだった?」
「……泣かないで」
泣いてねえよ!
エミリがハンカチを差し出した。僕はそれを振り払って投げ捨てる……ほど勇気もないので細やかに押し返した。白で百合の刺繍が入っていて可愛かった。
首を横に振って腕でゴシゴシ目を擦った。
僕はレオに好きって気持ちすら伝えられない。
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