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ハイタッチ
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かく言うわけで、僕たちが縫いあげた王子と姫のドレスは、本番の三日前に完成した。僕とエミリとアイリは完成した衣装をトルソーに着せて見やる。
僕たちはなにも言わないで頷いた後に三人で顔を見合わせてハイタッチした。
どこにやっても恥ずかしくない最高の召し物ができた。このドレスだけでかなり高評価を得るに違いない。僕たちはそう確信した。
姫のドレスは明るい赤紫と肌色を混ぜたような上品で落ち着いたピンク色で、丈はミモレより数センチか長めの着やすいドレスにした。双子は絶対にコルセットでウェストを絞ったAラインの可愛い王道のドレスがいいと言い張ったが100年も寝るんだから絶対そんな窮屈なドレス着られるかと随分言い争いになった結果、美しい刺繍の入った花びらのようにドレープを着けることと、袖を綺麗なレース生地にするという妥協の末ミモレのドレスになった。
王子の方は本当に中世風のものにすると白タイツがどうもダサいということになり、ゴスロリ界隈の王子系をモチーフにスチームパンクベースで仕上げた。色合いも青系と緑系で揉めた。双子は王子と言ったら青でしょと主張したが、僕はピンクのドレスには緑の方が合うしそういう偏見は流行らないし流行らせないしレオには緑の方が合うと言い張った。結果僕の意見が通った。僕は随分僕の意見を押し通したが、正直言ってこの時だけだ。これから先仮に僕が誰かと何かを生み出すことになったとしても、僕は首を縦にしか振らないだろう。
僕たちはハイタッチした後にもう一度二着の衣装を見やる。
「最高ね」
「最高だわ」
僕もうん、と頷いた。
そしてもう一回ハイタッチした。その工程を三回くらい繰り返した。
各々夢見心地で衣装を眺めながら、きっと同じことを考えていたと思う。
二人に絶対似合うだろうな、二人はこれを見たらいったいどんな嬉しい反応を見せてくれるかな、って。絶対に同じことを考えていた。三人でにやにや笑っていたので気持ち悪いのは僕だけじゃないと思う。同じ穴の狢だ。
完成品を見せたいと言って裁断が終わってからは別室でずっとミシンとにらめっこしていたので、僕らはそそくさと散らかった物を片付けて二人を呼びに行くことにした。
僕はすごく嬉しかった。
自分が誰かと何かを成し遂げられたことも嬉しかったし、なによりもレオが着る服を僕自身が手がけられたことがとても幸福だった。
この服をレオが着るだけで、いや、着るということを考えるだけで、世界中でいちばんの幸せ者だと思ってしまった。それくらい彼との接点が無くなっていた。
僕はやっぱり悲しかったし寂しかった。でも同じくらい充実した日々だったと思う。僕はレオの姫にも王子にもなれないけれど、お針子にはなれたんだから。
それってやっぱりとても光栄なことなんだって、思う。
「実は明日のリハーサルに間に合うか心配だったのよ」
僕と双子と鳥口とレオの五人で廊下を歩いていたら、鳥口が興奮を隠せない様子で僕らに言った。僕ら、というかエミリとアイリに言ったと言った方が正しい。
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