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ミモレのドレス

 校舎の廊下は五人が横一列に並べるほど広くはない。必然的に縦何列かになる。  順番で言うと、エミリとアイリ、その後ろにレオと鳥口、そしてその後ろに僕だった。僕には鳥口の言葉に対して振り返る彼女たちの表情がとても良く見えた。  双子は鳥口に笑いかけたあと、ごく自然な動きで僕に目配せして笑った。 「当たり前よ。リハーサルって言っても校内発表会じゃない? 明日の段階で他クラスに目に物を見せてやりましょう」  エミリが鳥口に自慢するように言っている。その間にアイリにウィンクされた。なんかすごく嫌な予感がしたけど僕はそのウィンクをなかったことにした。  レオと僕は終始無言だった。レオに至っては俯いてまるでなにも話さない。まるで声など必要なかったので失いましたって感じだった。本当に劇の練習をできていたのだろうか。斜め後ろから見ても、レオの周囲にあんなに溢れていた彩りはもう随分前から失われていたかのように寂寥としていた。  こんな僕にそんな感情を抱かれるのはかなり癪かもしれないが、それにしたって僕が哀れむくらいには、彼は日かげに咲いたひまわりのようだった。  レオ……大丈夫、きっと元気になる。衣装を見たらきっとレオも笑ってくれると思う。思うじゃない、絶対! だって僕はそのために何週間も針と糸を持ったんだ。レオのことを考えながらずっと君の服を仕立てたんだよ。  家庭科室の扉をエミリとアイリが開けた。  鳥口は一目見た瞬間、わあ、と嬉しくなるような感嘆の声を漏らした。  彼女は足早にドレスの元へ駆け寄る。その後ろをレオはついていった。僕はレオの後ろをついていく。手を後ろ手に組んで、鳥口とレオの反応を緊張しながら見守った。 「素敵! こんなに素敵なドレスだなんて夢にも思わなかった!」  エミリとアイリは同じタイミングで同じように腕を組んで、えっへん、って顔をしていた。 「普遍的なお姫様のドレスじゃないところがいい! クラシカルで品があるし、森の中を歩い ていそうで……こんな衣装を着られるなんて、最高!」  鳥口は胸の前で両手を絡めてうっとりした顔でそう言った。 「ミモレのドレスは浅見くんの提案なの」 「刺繍も彼がしたのよ」  エミリとアイリはそう言って僕に目配せして笑った。  鳥口はくるりと翻るなりズカズカと僕の前へ来て問答無用で僕の両手を取った。  彼女の瞳に流れ星がやってきている。 「浅見くん! ありがとう! 本当に素晴らしい!」  僕はたじたじになりながら会釈をする。喜んでいただけてなによりです。  試着してみたい! と彼女は言った。アイリが手伝う、とドレスを纏ったトルソーごと家庭科準備室の中へ消えて行った。  家庭科室には、エミリと僕と、レオとレオの衣装が取り残された。  

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