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一体誰のため
後ろの方からアイリが満足そうに着いてきた。
「最高ね」
「最高だわ」
エミリとアイリが言った。
僕も頷いて笑った。
自然な手つきで目尻に溜まった涙を掬ってブレザーの背中で拭う。
鳥口は最高に幸せそうだった。リハーサルと本番が待ち遠しいと彼女は言った。
僕も一方では凄く待ち遠しい。でもレオだけは、みんなに合わせて笑っているだけだった。僕はこんな未来を望んでいない。だけど彼にもっと楽しそうにしろなんて言えない。
鳥口は最後まで練習を頑張ると言って意気揚々と出て行った。レオも貼り付けたような儚い笑みを携えて消えた。
結局レオの手紙を僕が受け取ったことを伝えられないまま、僕たちは三人になった。
アイリが姫の衣装をトルソーに着せ直していた。静かになった。心も空間も。静かになった。
エミリが僕の方をちら、と見る。僕もエミリの方をちら、と見た。
レオは鳥口が主役をやることに不服だったのだ。納得していなかった。じゃあ僕が今までやってきたことってなんだったの。だってレオが納得していない状態で劇をするって、それじゃあまるで……。
「レオくんにとって、学芸会が『良い思い出』になるのかしら……?」
アイリは肩を竦めた。エミリも同じように小さく肩を竦める。
僕はその場に立ち竦んで西日の残滓が消えるまで動くことができなかった。
僕のやってきたことって、一体誰のためだったの……?
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