41 / 66
頑張れ浅見流歌
朝のHRギリギリの時間に教室に入った。クラスメエトの雰囲気は全体的に浮き足立っていて、それでいて自信に溢れていた。それぞれがそれぞれの班で頑張ってきたのだと思う。リハーサルは確かに他クラスに見せるという名目ではあるが、僕たち自身の完成作品の見せ合いと言う側面もある。
皆今日の日のために頑張ってきたのだ。皆が頑張る、というのは随分難しいことだ。一丸となって、なんて奇跡と同じくらい不可能に近いのに、それが可能になったのは主役の二人の影響が否めない。
あんなカッコいい主役たちならばこちらの士気も上がるというものだ。
HRが終わると僕らはそれぞれ持ち場につく。
僕が家庭科室に入った時、もうすでにレオがトルソーの横に座って僕を待っていた。僕は浅く呼吸をして家庭科室の扉を静かに閉めた。俯きながら一歩一歩彼とドレスのほうへ向かう。上靴のくせに随分響く音がした。
レオは予備動作もなしにすっと立ち上がると、目の前にやってきた僕に向かって口を開いた。
「マミコはもう向こうで着替えてる」
僕はうまく視線を合わせられないまま、なあなあな気持ちでこくりと頷いた。
僕たちはお互い動こうとしない。向かい合って目を伏せたままずっと立ち続けていた。いやいやそんなことするために今ここにいるのではない。頑張れ浅見流歌。やれるやれる、僕ならやれる。いややっぱ無理。だめだやるんだ。
僕は拳をぎゅっと握って顔を上げる。熱い顔を意識の向こう側に追いやって、震える手を彼のブレザーに伸ばした。
レオは僕を見てなにも言わない。僕は彼の様子を見ながらブレザーのボタンを上から丁寧に外していった。
レオに触れているという事実だけで眩暈がしそうだった。息が止まりそうで、背中も首も耳も全部全部熱くなる。
自分で脱ぐって言ってくれよ。それくらいできるでしょ、なんで僕が脱がせてるんだよ。いや僕だけどね! 最初に手を出したの僕だけどさ!
脱がせたブレザーをたたんでテーブルに置いて、ネクタイをしゅるしゅると解いたあたりから非常にそわそわしてきた。
僕に彼の素肌は眩しすぎる。見られそうもない。だけどレオは一向に自分で服を脱ごうとしない。衣装着る気あるのかこの野郎。
僕は仕方なく震える両手を彼のブラウスの襟元に伸ばす。律儀に一番上までしめているボタンを一つ外した。彼の白い首筋と喉仏が露わになる。
どきどきして本当に卒倒しそうだった。それでもレオは動いてくれない。もう一個ボタンを外すと今度は鎖骨が見えた。もう一つ外すとみぞおちが見えて、僕はこれ以上ボタンを外せなくなってしまった。
ともだちにシェアしよう!