42 / 66
変態
残り二つなのにボタンを摘みあぐねている僕の手を、レオが取る。
もし僕に声があったら短い悲鳴を出しているところだった。でも手首を掴まれたのは痛い。脈拍がバレる。
僕たちはなぜかまた見つめあった。レオはまるで口の中に言葉の飴玉を含んでいるようにもごもごしているようだった。僕はレオを直視することができなくてわなわなした。手に変な汗をかいている。
レオ、レオの素肌、レオが目の前にいて、僕の腕を掴んでいて、なにも言わなくて、でも視線が痛くて、頭が限界まで大きくなった風船のように割れそうだった。
「ルカ……」
名前を呼ばれただけで脚に力が入らなくなりそうだ。
「……自分で脱ぐよ。着る衣装をちょうだい」
腕を離されてすぐレオと距離を取った。頷きながらトルソーが着ている衣装を脱がせた。トルソーの服を脱がせることはこんなに易いのに、レオの服を脱がせるのはハードルが高すぎる。
背後で衣擦れの音が聞こえていた。レオはどこまで脱いだのか、振り返っていいのか、ダメなのかいいのか、振り返りたいのかそうでないのか頭にテキーラを流し込まれてしまったかのように思考が酩酊している。
僕ずいぶんさもしくないか? 変態みたいじゃん。嫌だほんと、僕って変態だったのか? あーダメだこれ僕が、僕がレオの服を着替えさせることなんてできないだろ! 無理!
一人であたふたしてたら、耳の脇から白い両腕が伸びてきた。体を竦ませていたら、レオが後ろから僕が持っている衣装のブラウスを取ったんだった。
レオは今僕の後ろにいる。頭の両脇から腕を伸ばして、右耳の真後ろに吐息がかかるのを感じた。
腕は素肌で、僕は後ろを振り返ることができない。レオの体温と匂いを感じる。
控えめに言って死にそうだった。
「これを着ればいい? 下は……? これ……?」
耳元で囁かれて体が跳ねる。僕はなぜか口元を押さえながら僕が持っているズボンを指差しているレオに向かってこくこくと頷いた。
僕って変態だったんだ……。半裸のレオが後ろにいるっていうだけで鼻血出そう……。いやまて半裸? レオはズボンも持っていったよな? え、待って下も脱いでる? いやちょっと無理……環境も無理だし自分も無理……事実が辛い……。
とりあえず慢性的にレオ不足だった僕にこの状況は刺激が強すぎるので後ろを向いてしゃがんで縮こまっていることにした。
できた、と彼が言ったので僕は恐る恐る振り返る。
ともだちにシェアしよう!