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僕の唯一の幸せ
君に気持ちを伝えられなくて悲しかったよ。
君になにも与えることができないと知って絶望したよ。僕は。
ブレザーの内ポケットから、僕は少し古びた真っ白い三通の封筒を取り出した。
歪んだ顔で笑ったら、涙が溢れてしまいそうだった。
レオが美しいプルシャンブルーの瞳を大きく広げる。
「これ、って……」
彼が三通の手紙に手を伸ばしたその時、それを誰かが横から奪った。姫の格好をした鳥口が肩で息をしてレオの手紙を掴んでいる。
「これをどうするつもり?」
鳥口はそう言うものの、手紙を背中に隠してしまった。
僕は取り乱して彼女に手を伸ばす。
返して!
それを返して!
僕は叫んだけど声は当然のように出ない。
鳥口姫は随分美しかった。髪もハーフアップをクラシカルで上品に整えて本当にお姫様のようだったけど僕はそんなことに気を配る余裕もないくらい平静さを失っていた。
彼女に向かってぐいぐい前身した。彼女も同じくらい後ろに下がるので距離はまるで縮まらない。
「マミコ……返してあげたら?」
「何か知らないけど、浅見くんの大切なものなんでしょ」
様子を見ていたエミリとアイリが言った。
そうだ、大切なものだから返して。
ていうか鳥口はあの手紙がなんなのか知ってるのか? 知ってたとしたら知っていることが不自然だし、知らなかったとしたらなぜ横取りしたのか理解できない。
彼女の行動が掴めない。とりあえずなんでもいいからその手紙だけは返して欲しい。
それは僕の唯一の幸せなんだ。
その幸せが破ける音がした。
一度めの紙が破ける音を聞いた時、それが一瞬なんの音か分からなかった。二度めの音で、手紙を鳥口が背中の後ろで破いているのだと察した。
三度めの音で、エミリが言った。
「マミコ! やめなさいよ!」
アイリが鳥口の手を掴んでいた。
「なにやってるの!?」
「……っ、もう遅いよ!」
鳥口はアイリの手を振りほどいて、手紙だった紙屑をぐちゃぐちゃに丸めると、脇目も振らずに家庭科室の窓から外へ放り投げた。
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