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逃亡
僕はしばらく現実が飲み込めなかった。声も出なかった。それはもともとだけど。
気づいたら両方の目から血液由来の水が溢れていた。それは止まることをせず、雪どけの水のように静かにさらさらと僕の頬を伝っていた。
しゃくり上げはしなかったけれど、鼻水が出てきてしょっぱかった。
魂を抜かれたように、マミコと双子の口論をなんとなく目に映していた。ふとレオが気になった。だから隣にいるような感じのレオの方を向いた。
レオは困惑した様子で女生徒たちを見やっていたが、僕の視線に気づいて僕の方を振り返った。
彼と目が合った瞬間、堰が切れたように涙が溢れ出した。とりあえず笑った。だけどその笑みはすぐに慟哭に押し流されてしまった。
僕はとぼとぼと開け放された家庭科室の窓をよじ登って外に出た。散らばった手紙だった紙屑を拾い集めて手紙だったものに唇を寄せる。今朝と変わらない香りがする。
破けたけど、これをしたためた時の彼の想いは消えてない。よね。
どんな形だってこれは、僕の大切なものだった。
レオが窓辺から僕を見ている。
しばらく一人になりたかったので、さよならの代わりに微笑んで、僕はそのまま逃亡した。
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