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私たち
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脚が勝手に向かう場所と言ったら一つしかない。気づいたら例の花壇の縁に手紙の残骸を両手に持って呆然としていた。目はその残骸を目に写すのだけれどそれに意味などなく視界は永遠に遊泳している。
僕は泣くな、泣くなと自分に言い聞かせた。泣いて紙に滲んだら、もっとみすぼらしいものになってしまうだろう。だから泣くな、と呪文のように唱えるのに、頭上からは残酷にも雪が妖精のように舞い降りてくるんだった。
小さな雪の結晶の集まりが、僕の手のひらにも平等に降り注いでいく。悲しい。雪まみれになる前に僕は手紙だったものをブレザーの内ポケットへこれ以上殺さないようにしまい込んだ。
僕の手のひらにはなにもなくなった。手持ち無沙汰になったので空を見上げることにした。空と大地の境界線を失った乳白色の空は、どこまで遠くどこまで近いのかも分からない距離から音もなく雪を落としていった。
心の衝撃が強すぎてまるで寒さを感じない。
誰を恨むとか、誰を慈しむとか、誰に憤るとか、そういったこともまるでない。虚無。虚をさらに虚にした虚だった。
今頃体育館では各学年、各クラスの劇の見せ合いが始まっているに違いない。僕自身は劇中も裏方や照明の担当もないので、客席から大船に乗ったつもりで自分たちの劇を観劇し、他のクラスの劇を楽しむ予定だったのに、なぜ僕はここにいる。
ふと時計を見た。プログラム上ではあとものの数分で僕たちのクラスの劇が始まることになっている。
レオが劇をしている場面を思い浮かべたら、僕の脚はなんとなく体育館の方に向かっていた。がらんどうの体育館の正面口を音も立てず、力もなく歩いていたら、遠くの方から僕を呼ぶ声が聞こえた。
「浅見くん……っ!」
少し高めの、息の弾んだ声が二つ綺麗に響いて重なる。
聞きなれた声。エミリとアイリの声だ。
僕は視線をそちらに向ける。まるで同じ動きで彼女たちが僕に向かって駆けてきた。二人は息を弾ませて言った。
「大丈夫だった?」
なにが?
「平気?」
どこが?
「手紙は無事……じゃないよね」
なぜあれが手紙だと分かっているんだ。
「ごめんね、本当は知っていたの」
アイリが泣きそうな顔で僕に打ち明けた。
「あれはレオくんがあなたに宛てて書いた手紙でしょう」
「三通あった」
「知ってたの」
エミリとアイリはそう言ってお互いの顔を見合わせた。
そして僕の方を二人で向くと、涙をこぼしながら僕に言う。
「校舎裏の雪だるまを壊したのは私たちなの」
ごめんなさい、と彼女たちは言った。
「本当はあなたが朝来る前に壊そうと思っていた」
「三通の手紙ごと全部なかったことにしようとしていたの」
「だけどあなたの方が早くて」
「あなたがいなくなったあと」
「私たちが、壊したの」
耳によく入ってこなかった。
なにを言われているのか、分からなかった。
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