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 顔は雪のせいでぐっと冷たいのに、目の周りだけ燃えそうなくらい熱かった。セロリを捻じ曲げるような音を立てながら、僕は通学路を一人でとぼとぼ歩く。気忙しく学校を飛び出したものの、伯父さんと伯母さんの都合で夕方にならなければ家に帰れない。  どうしようかと結局油を売ることになった。とりあえず誰にも会いたくなかった。足は自然と裏道や小径を選んでいる。下を向いて歩いていたら、不意に白一面の地面に鮮明な赤が入り混じる。我に返って顔を上げたら、山茶花の植木のある小径に立っていた。  レオが僕に教えてくれた場所だった。  どこかの軒先の山茶花だ。もうだいぶ朽ちてしまった。大きな花を綻ばせながら、最後の冬を謳歌している。じっと見つめていたら涙が出ていた。  そこに一人だったら僕は随分植木の前にいたかもしれない。だけど山茶花越しにしらない誰かと目がバッチリ合ってしまった。  黒のケープを羽織って、黒の瀟洒な着物を着た、よそ行きの格好の渋い女性がいた。長いと思われる黒髪をぴっしり後ろでまとめ上げていてとてもきちんとしている印象を受けた。傘は着物によく似合う奥深い燻んだ紅色の番傘を模した傘だった。口紅も同じ色で、白い肌と白い雪景色によく映える。  美しい女の人だった。歳は分からなかったが、雰囲気で半世紀は生きているような気がした。  目が合ったまま、僕はその女性から目が離せなかった。  女性はしばらく僕を観察するように見た後、首を傾げて笑う。笑顔は可愛くて妙齢の女性のようにも思えたけど、目尻の皺が僕の錯覚を正す。 「そんなに泣いて……なにかあったの、坊?」  坊って初めて言われたんだけど。でも彼女が言うとやけに説得力がある。初対面なのに、僕の中にまるで警戒心が生まれなかったのは彼女が綺麗な山茶花がある軒先の内側にいるということと、身なりがきちんとしていることと、それから笑顔が優しかったことが大きいかもしれない。  声は年相応の落ち着いた声で、僕はなおさらどっと涙が溢れそうになった。  僕が返事をできないでいると、彼女は打ち解けたようにまた笑った。 「ごめんね。あんまり酷い泣き顔だったから……ほっぺも真っ赤だよ……お家に帰るの?」  僕は首を横に振る。家には帰れない。 「寒いでしょう。お茶でも出そうか」  嫌ならいいよ、と言いながら彼女は傘を持っていない方の手で丁寧に門を開けてくれた。 「夕方まで私も家に一人なの。お話し相手になってくれたら嬉しいんだけど」  知らない人について行ってはいけませんと僕に言ってくれた父さんと母さんはもういないし、それに僕は生まれて初めてくらいに超絶自棄っぱちになっていたし、なんならもう死んでもいいかなとも思っていたので、僕が通るためだけに開いていた門を潜ることにした。  いらっしゃい、と彼女は僕に笑ってくれる。  この人一体誰なんだろう、と思ったけれど、よく見たら初めて会う感じもしない。僕の家も一応近所だし、どこかで会ったことがあるのかもしれない。  

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