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カステラ
僕は少し俯いた。ブレザーの内ポケットの中身のことを思って、止まった涙がまたぶり返しそうになる。
エマの方を少し見て、手紙の残骸をテーブルの上に置いた。彼女は紙くずに成り果てた三通の手紙をしばらく見下ろしていた。手紙だと分かったらしい。怪訝そうに顔を上げた後口を開いた。
「ラブレター?」
僕は頷く。
「君が書いたの?」
首を横に振る。
「破かれたの?」
三秒くらい迷って俯くように頷いた。
「……意中の彼に?」
『意中の彼』って……色々ツッコミどころが満載だが、そこをほじくり返して指摘することは僕にとってハードルが高すぎることなので、とりあえず首を横に振った。
「これは彼が君に宛てて書いたもの?」
頷く。とても大切なものだった。
「つまり、彼が君に宛てて書いた手紙を第三者が破った、そうね?」
首を一度縦に振った。
エマはため息を吐く。
「……なんだか複雑なところにいるのね、ルカ」
僕は苦し紛れに笑った。本当は笑う余裕もなかったけど、なんか笑みが溢れた。どうしようもない時人は笑うのだ。
「欠けらは全てあるの?」
あると思う。
「だったらセロハンテープでくっつけましょう。手伝おうか?」
僕は喉元まで出かかった言葉を言い放つことができない。声がないし、ここで駄々を捏ねる子どものように泣く度胸もない。
そうしたらエマが僕の気持ちを代弁するように言った。
「くっつけても元通りではないのは分かるよ。でも受け入れるしかない、でしょ? 一度壊れたものは元通りにはならないし、あったことをなかったことにすることはできない」
概ね同意だ。受け入れることには時間がかかりそうだった。
でもこの紙くずが手紙の体裁を再び取り戻すことができるのならば、もう一度パズルのように嵌め込んでいくのもやぶさかでは無い。やぶさかでは無い、と思うしかない。
一人で心の中でため息をついていたらエマが、そうだ、と言ってまた茶の間から消える。
しばらくして彼女は四角い木のお盆を持ってやってきた。カステラが乗っていた。
「冷蔵庫に入ってたの、あげる。箱に名前が書いてあったけど気にしない」
それ絶対「食べるな」って意味で名前を書いたんだと思うんだけど、僕が食べていいんだろうか。食べ物の恨みは怖いぞ。
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