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元気を出して
「大丈夫、許してくれるわよ」
とっても美味しいのよ、とエマは笑った。
目の前に出されたカステラは、確かに今まで見てきたどんなカステラよりも美味しそうだった。まず黄色の色が濃い。黄色に黄色を重ねてその上に黄色を落とし込んだような濃さだ。そして焦げ目の茶色が美しい。断片も口の中で解けそうなしっとり感が見ただけで分かるようだった。
「美味しいものでも食べて元気を出して」
美味しいもので元気になるなら僕の悲しみはどれだけ軽いというのだろう! とか脳内でオペラみたいに叫びながら二本に割れているおしゃれなフォークみたいなやつでカステラの四分の一くらいの場所を割いて口に入れた。
脳髄に電撃が走る。
エマが僕の反応を見て笑った。
口の中で柔らかすぎる生地が雪のように溶けて舌の上で上品な甘みが広がる。噛み締めるとがり、というおおよそこの柔らかさに似つかわしく無い食感を感じる。ザラメだ。
なんだこのカステラ……!
「ちょっとは元気になったね」
元気になったわ。でも一口でいい。二口、三口と口に運ぶほどの元気はなかった。
エマはゆのみのお茶を啜る。
「君は彼のどういうところが好きなの?」
僕もゆのみのお茶を啜った。カステラの後のお茶は最高だ。
僕は再び筆記用具を手に持ってしばらく考えた。
文字を書く。
『声のない僕を好きだと言ってくれた』
僕の書いた言葉を見て、エマは言う。
「その人はルカが喋れないから好きになったのではないと思うけどな」
そしてお茶を飲んだ。
僕もお茶を飲んだ。なんか和んだ。
「もっと別のルカの魅力に惹かれたのではないの?」
『寂しそうで惹かれたと言っていた』
「確かに君の泣き顔は放って置けない感じがしたわね」
エマは苦笑した。
「どうして失恋したの? 今までの話だと、君も彼も好き合っているように思える……君の気持ちには答えられないと言われたの?」
『ひどく傷つけてしまった』
「じゃあ謝れば済む話じゃないの? ごめんなさいすれば?」
僕は彼女の言葉を聞いていた。
口元に手を当ててしばし考える。
文字を書いた
『確かに』
確かにそうだ。ごめんなさいすればいいのか。
なんかすごく簡単なことのように思えた。
あれ、僕、こんな簡単なことを、どうして何週間も深刻に考えていたんだろう?
「解決ね、実ると良いわね」
エマはお茶を啜った。
そしてああ美味しい、と言った。
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