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確かに

 手持ち無沙汰になったので、元は大切な三通の手紙だった紙くずをパズルのように元の形に並べることにした。一文字一文字破れ、解れ、綻んでしまった文字と意味のある言葉たちを、文章を紡いでいた時に巻き戻すように並べ替えていく。その作業をしていくうちに、僕はまた落ちた椿を見た時のような気持ちになるんだった。  紙くずはそんなに時間のかからないうちに三枚の紙の体裁をなんとか成すことができていると言えるまでに復元された。小さなかけらが数枚足りず、虫食い穴のように底の見えない空洞が生まれている部分もあった。  でもこれは、確かにレオが僕に宛てて書いた手紙だったものだと認識することができる。もう紙くずじゃない。これは僕の大切な手紙だったものなのだ。  それぞれに綴られた言葉に再び目を通すと、初めて目にした時と同じような気持ちが胸の内で燃え上がった。それと同じくらい常闇の中で延々と揺れる大海にたった一人で取り残されたような気分にもなる。きっと地球が滅んで全ての生物が死んだのに僕だけが生き残ってしまった世界では、こんな気持ちが終わりのない時間の中でずっと心中を苛んでいくに違いない。僕は老いて死ぬのではなくこの感情に殺されるのだ。きっと。  まあそんな未来など限りなくないんだけどサ。  なんとなく時計の方を見やる。通常通りの下校時間はとっくに過ぎていた。僕のことは学校ではどんな扱いになっているのだろう。さっきまでは強気だったのに、そんな自棄さは消えかけのともし火のようになっていた。  伯父さんと伯母さんに迷惑を掛けることはしたくないと思いながらも、結局そんな結末になってしまいそうな気がする。あまつさえ先日まで風邪を引いて随分迷惑をかけたのだ。僕が帰りのHRで姿が見えないことに対して、担任が気を利かせて連絡でも入れたらおしまいだ。  僕は。  ああ僕はこんなところで一体何をしているんだろう?  どこに戻ればいいんだろう。  雪はいつ止むのだろう。  寒い。 「Oma!」  襖の向こうから絶叫にも似た声が聞こえてきた。廊下の先のここからだいぶ距離のある玄関がガラガラ、と勢いよく閉まる音が聞こえる。ガラスの割れる音がしなかったので、玄関の戸は割れなかったのだと分かった。  エマの声じゃない。随分激しい声だった。女の人の声ではない。でも男の人の声という感じもしない。気忙しさを感じれば、ずっと幼い声のようにも思えた。  僕は……僕はこういうどっちつかずの声が割と嫌いではない。  体に一気に緊張が走った。音を辿ればこの家の居住者が帰ってきたと考えるのが妥当だ。しかし……僕のこの状況をどう説明すればいいんだろう? 「Oma! ルカが!」  え、僕? と思った瞬間突風が吹き荒れるような勢いで襖が開く。 「ルカがいなくなっちゃった! 探してくるから……」  部屋を仕切っているものが開いた瞬間、声は一気に鮮明な振動となって僕の耳に入り込んでくる。襖を背にしていた僕は、聞こえた声に対して、自分の中で緊張以外の感情が生まれるのを感じた。

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