54 / 66
雪の味
本のページを捲るよりも僅かな時間躊躇して、最後には恐る恐る後ろを振り返る。
泣きそうな顔をしたレオが、真っ白な肌を真っ赤にさせて、肩で息をしながら立っている。外套は乱れ、髪や肩には降りたての雪がまだ白い結晶となって積もっていた。
「ルカ……!」
冷気が僕を包み込んだ瞬間に、レオが雪崩れ込むように僕の元にやってきて抱きしめる。
「良かった……! ここにいたの……! 良かった……!」
今までにないくらいのきつい抱擁に物理的に胸が苦しくなる。外の匂いがした。頬にあたる耳も肩口も全部全部凍えるように冷たかった。だけど、すごくあったかい。
「どこかで寒くて震えてるんじゃないかと思ったら、俺居ても立っても居られなくて……あったかい……良かった……本当に……ルカ……!」
僕は捨て犬か? 普通に家に帰ったんだーくらいに思ってくれればそれで良かったのに。しかもレオ、さっき『探してくる』って言った。そんなことしなくていいのに。あてもないくせに。僕の住んでいる場所も連絡先も知らないくせに。
探してくるって。こんなに寒いのに。雪も降ってるのに。
こんな僕を、探してくる、って。
僕は君に酷いことをしたのに。くれた気持ちを無下にしたのに。
ばかだよ、レオは。
ほんとばか。
レオから少し距離を取った。不思議がる彼を他所に冷たすぎるほどに冷たい彼の片手を両手で包み込む。
椿の花にそうしたように、僕は彼の指先に唇を寄せた。
ごめんね。
「……」
ごめんね。君をたくさん傷つけてごめんね……ありがとう。本当に。僕は。
僕は君のことが……!
「……、……っ」
レオの片手が僕の顎の付け根を滑っていく。彼は涙で濡れた頬を拭いながら僕の顔を持ち上げた。
彼の顔が近づいてくる。
「……ルカ大好きだよ……!」
唇が塞がった。
初めてのキスは雪の味がした。
まだ冷たい彼の唇が僕の熱を溶かすように温かさを吸い込んでいく。
ほんの数秒の出来事だったけど、体感では十分にも三十分にも思えるほどの時間だった。
塞がった唇が離れた瞬間、僕は息を吸い込んだ。
胸に手を当てて、口を開ける。
ともだちにシェアしよう!