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三時間
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レオはマミコに破かれた三通の手紙をセロハンテープでくっつけることに対して難色を示したが、僕は譲らなかった。手伝わなくていいからセロハンテープを持ってこいと彼に言った。
そうしたら彼は赤い顔をしながら渋々セロハンテープを持ってきてくれた。透明度の高いちょっと高いやつだった。いいテープ持ってるじゃないか。
僕は早速手紙の修復作業に取り掛かる。
レオは僕の腰を引き寄せると座ったまま僕を後ろから抱き締めてくる。ちょっとびっくりして振り返った。彼のほうがだいぶ身長が高いので僕の体はほぼレオの体で覆われてしまう。
「な、に?」
「くっついていたい」
「くっつき虫か」
「くっつき虫ってなに? 虫?」
「あ、ああ……うん……」
「どんな虫?」
「え……えーと……」
そんな純粋な瞳で僕を見つめないで欲しい。なんだったかな……と適当にはぐらかしたが、指先は動揺を隠せずに震えた。
会話できている自分に随分違和感を持つ。でも確かに、僕はレオと会話していた。
ずっと夢だった会話なのにくっつき虫の話をするとは思わなかった。
黙って手を動かした。彼が飽きもせずに僕の肩口越しに僕の手元を見ている。
「……三時間」
レオがポツリと囁く。
「一通書くのに、三時間かかった」
恥ずかしそうだった。
手紙を書くのにかかった時間を言ったのだとすぐに分かった。
それくらいかかっただろうな、と僕はしみじみ思う。僕と初めて会った時には文字を読むことすらできなかったのだ。それなのにたった数日でこんなに長い文章を書いたのだから当然だ。もっとかかってもいいくらいだとも思う。
「祖母に……たくさん聞いた、辞書も引いた……」
祖母ってエマのことかと僕は思った。後から聞いたら、レオは四分の一は僕と同じ血が流れているらしい。エマはこっちの人で、祖父と両親は左の方の人なんだって。初めてこの家の山茶花を僕に見せた時、彼は僕を自分の家に招待する気だったらしい。僕が自分の悲劇に酔いしれて逃亡してしまったのでそれは叶わなかったわけだが。
うなじに息がかかる。腹部に巻かれている腕にぎゅっと力がこもった。
「読んでくれて……本当に嬉しい」
僕はこの感情を彼にどう伝えればいいのか思い悩んだ。いざ喋ることができても、思い浮かんだ言葉が彼の努力や思いに全く似付かわしくない。
「死ぬまで大切にする」
こんな陳腐な言葉しか言えない。でも彼は小さくありがとうと言ってくれた。
流石の彼も幾分か恥ずかしかったみたいで、僕の背中越しで小さな声を立てて笑った。僕も一肌脱ごうと静かに深呼吸する。
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