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どうだか
「……返事を書いたんだよ、僕。君の手紙を読んですぐ。便箋がなかったからレポート用紙に書いたんだけどサ……随分気持ちが昂っていたから、結構酷い内容だったかもしれない」
どこに行ったのかわからないんだけどね。僕は乾いた笑いをこぼして作業を進めた。僕の右手の横に、僕の手よりふた周りくらい大きい彼の手が置かれた。なんだ、と思った矢先、彼の手の下から一枚の折りたたまれたレポート用紙が現れる。
僕は咄嗟に奪おうとしたが遅かった。彼が素早い手つきでそれを広げる。
僕がレオに宛てて書いた手紙だった。体が一気に熱くなる。全身の毛穴から嫌な汗が吹き出るような気持ちだった。
「今日の劇が終わった後エミリとアイリがくれた」
「ちょっと回収します」
「嫌だ」
「まさか読んでないよね? え、ちょっと、返して! 無理!」
奪おうとする両手を掴まれる。身動きが取れなくなった僕にレオが言った。
「読んだ。読めない漢字もあったけど」
顔が噴火しそうだ。笑顔が引きつる。穴があったら入りたい。
「俺が早とちりして、ルカに随分酷いことをしてしまったと思った。ごめんなさい……本当に。もっとルカの話を聞けばよかった。勝手に一人で妄想して、それが正しいと思い込んでしまった。言い訳だけど、俺も余裕が無かったんだ」
気持ちを伝えるのってすごく勇気がいるものだから、と彼は小さな声で言った。
「あの場所に俺とルカ以外の人が来るとも思ってなかった。だから勝手に、雪だるまを壊したのはルカなんだと、決めつけてしまった」
「僕も思わなかったよ、だからもうこの話はやめよう。終わったことだし……そういうわけだからこの手紙は返してください」
彼はものすごい速さで僕の手紙を畳むと、制服の胸ポケットにしまった。
そして僕に言う。
「死ぬまで大切にするから」
僕の後ろにいるレオの顔が眼に浮かぶようだった。
覚えてろ。そう遠くない未来で必ずぎゃふんと言わせてやる。この野郎。
「マミコとはキスしてないよ」
三通目の手紙をくっつけていたら、レオが思い出したようにポツリと言った。
「どうだか」
僕は意地悪な気持ちになって言い返す。
「本当だよ。明日もしない」
「……じゃあ、もし僕が眠り姫だったら?」
「キスする。キスした後に抱き上げて、大衆に向かって俺のものだって自慢する。そのあと好きなところとか全部言って、国に連れ去って盛大に結婚式を挙げる」
へえ、と興味ないように相槌を打った。観客を巻き込む劇っていうのもなかなか楽しいかもしれないと頭の片隅で思う。そんな世界線もあったのかな。
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