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誰がなんと言おうとも
「エミリとアイリは、マミコに言われて雪だるまを壊したみたい。ルカの手紙のことはマミコには言えなかったんだって。ずっと持っていたみたい。内容も読んでないって。本当は俺の手紙も無かったことにしようとしていたらしいんだけど」
レオはここで言葉を区切った。
僕が彼女たちより先にレオの手紙を手にしてしまったからそれはできなかったということらしい。
マミコは僕とレオが仲良くしていることが嫌だったのかもしれない。
彼女は優等生で、学級委員をしているくらい人望も厚く頼り甲斐のある女生徒だった。男子からも女子からも人気があって、優しい人間だった。少なくとも僕は、去年一緒のクラスになった時実際にそう感じた。だから彼女は別に悪い人ではない。
世間的に見ても、マミコとレオが一緒にいた方がなんとなく納得のいく姿のように思える。僕らが今こうしていることは、前者に比べればよっぽど風変わりなことなのかもしれない。
でもレオは僕のことが好きだと言ってくれた。誰がなんと言おうと僕が好きだと言ってくれた。僕もレオが好きだから例えマミコがどれだけ素敵な人だとしても、僕はレオと一緒にいたい。
誰がなんと言おうとも、僕はレオと一緒にいたい。
随分経って、エマが買い物から帰ってきた。僕はレオと寄り添っているところをエマに見られたく無かったのでレオと離れたかったけど、レオはそれを許してはくれない。
「仲直りできてよかったね」
と彼女は言った。
ありがとう、と僕が言うと、彼女はまるで僕が喋っているのは当たり前だという自然な語り口でどういたしましてと笑うんだった。
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学芸会の当日の空は、昨日の雪がまるで幻想だったのではないかと思えるほどに晴れ間が広がっていた。僕はいつものように早起きして窓を開ける。
僅かに春の匂いがした。春の匂いはいつだって雪どけの音と一緒にやってくる。
耳を澄ました。どこから聞こえてくるのかわからない水滴の音や水の流れる音を感じる。空耳かもしれない。でもこの匂いは間違いない。
冬が着々と終わりを迎えようとしている。春が来るのはまだ先だが、きっともうすぐやってくる。
静かに身支度を整えた。スクールカバンを肩にかけ玄関へ向かう。
僕はいつものように雪用のブーツを履こうと思ったが思い留まってリビングダイニングに繋がる扉に手をかけた。
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