3 / 5
第3話
「……咲蘭 ……?」
お互いに注いだ酒が何杯目になるのか、もう覚えていない。不意に静かになってしまった咲蘭 を気遣い、叶 が名前を呼ぶ。
咲蘭 の息をつめた様子が分かった。
視線がそろそろと叶 に向く。
酒に潤んだ目と視線が合う。
頬は紅をさしたかのように、薄っすらと春花と同じ色に染まっていた。めずらしいこともあるものだと、叶 は思った。普段は滅多に顔に出ない咲蘭 の中々見ることが出来ない姿に、叶 は咲蘭 から視線を外せない。
やがて、そっと、咲蘭 が叶 から視線を外す。
「……少し、夜気に当たりに、行ってきますね…」
「大丈夫、ですか?」
「……ええ」
ゆっくりと咲蘭 が立ち上がり、楼台に向かって歩を進めた。
それは一瞬の出来事だった。
咲蘭 が体勢を崩して後ろに倒れこむところを、叶 が抱きかかえる形で庇った。
だが叶 も急に動いてしまったせいか、くらりと眩暈がしてそのまま後方へ倒れ込んだ。
叶 の痛そうなくぐもった声が聞こえて、咲蘭 は慌てて上半身をひねり起こす。
叶 は咲蘭 の下敷きになっていた。だが咲蘭 を支え抱える腕を緩めなかったのは、さすがというべきだろうか。
「す、すみません……叶 、大丈夫ですか?」
自分の上から降る声に、叶 は答えようとした。
大丈夫ですよ、咲蘭 、怪我はありませんか。そんな言葉が脳裏に浮かんだのだと思う。
だが。
その感覚に眩暈がした。
倒れ込んだ時にお互いの夜着の裾が乱れ、素肌のままの足が絡み合っている。
その肌の、あまりにも心地良い感覚に眩暈がした。
先程、少しだけ見えた、白い足首。
その白い肌の足が、今、自分の肌に触れている……。
ともだちにシェアしよう!