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第4話

「──……っ!」  気付けば視界が反転していた。  勢いに背中を打ち、咲蘭(さくらん)は息を詰めて痛みをやり過ごす。  絡められた足。  その肌の心地良さに、咲蘭(さくらん)はくらりと眩暈がした。  (かのと)と視線が合う。  そのあまりにも痛く切ない表情に、咲蘭(さくらん)はその顔に触れようとした。  何故そんな顔をしているのか。  問おうとしたその声は。  (かのと)の吐息によって止められた。  長い銀糸の横髪と、その吐息が、咲蘭(さくらん)の首筋にかかる。 「……あなたは何故ここに? 寝酒なら紫雨(むらさめ)でもよかったでしょう?」  突然紫雨(むらさめ)の名前が出てきて、咲蘭(さくらん)は困惑する。  それは一体どういうこと。  問いたいことがたくさんあった。  だがこの眩暈に似た感情が、咲蘭(さくらん)の正常な思考の邪魔をする。  (かのと)の息はやがて耳に。 「……さくら…ん…?」  吐息のようなその声が耳の側で囁かれる。  やがてその口唇は、耳を一番柔いところを食み……。                               「──……っ!」   多少強引に(かのと)は体勢を入れ替えた。  勢いに背中を打ったのか、咲蘭(さくらん)の息を詰める声が聞こえた。  視線が合う。  その潤んだ瞳。  不意に(かのと)は思った。  酔う、咲蘭(さくらん)の姿はとても艶やかだ。  では。  咲蘭(さくらん)に酒を教えたあの人は。  幾度この姿を目にしたのか。  (かのと)咲蘭(さくらん)の首筋に顔を寄せる。  今は顔を見られたくなかった。 「……あなたは何故ここに? 寝酒なら紫雨(むらさめ)でもよかったでしょう?」  咲蘭(さくらん)が再び息を詰める。  (かのと)咲蘭(さくらん)の首筋から耳元へと、その口唇で辿る。  ねぇ、と咲蘭(さくらん)に尋ねるそれは、まるで。 「……さくら…ん…?」  まるで吐息のような声を、咲蘭(さくらん)の耳に吹き込む。  先程吐き出した言葉のあまりの不甲斐なさをごまかすかのように、(かのと)咲蘭(さくらん)の耳朶を、自身が持つ牙で軽く食んだ。 「……ぁ」  今まで聞いたことがない咲蘭の(さくらん)声。  (かのと)は自分の血流が速く駆け巡るのを感じていた。

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