4 / 5
第4話
「──……っ!」
気付けば視界が反転していた。
勢いに背中を打ち、咲蘭 は息を詰めて痛みをやり過ごす。
絡められた足。
その肌の心地良さに、咲蘭 はくらりと眩暈がした。
叶 と視線が合う。
そのあまりにも痛く切ない表情に、咲蘭 はその顔に触れようとした。
何故そんな顔をしているのか。
問おうとしたその声は。
叶 の吐息によって止められた。
長い銀糸の横髪と、その吐息が、咲蘭 の首筋にかかる。
「……あなたは何故ここに? 寝酒なら紫雨 でもよかったでしょう?」
突然紫雨 の名前が出てきて、咲蘭 は困惑する。
それは一体どういうこと。
問いたいことがたくさんあった。
だがこの眩暈に似た感情が、咲蘭 の正常な思考の邪魔をする。
叶 の息はやがて耳に。
「……さくら…ん…?」
吐息のようなその声が耳の側で囁かれる。
やがてその口唇は、耳を一番柔いところを食み……。
「──……っ!」
多少強引に叶 は体勢を入れ替えた。
勢いに背中を打ったのか、咲蘭 の息を詰める声が聞こえた。
視線が合う。
その潤んだ瞳。
不意に叶 は思った。
酔う、咲蘭 の姿はとても艶やかだ。
では。
咲蘭 に酒を教えたあの人は。
幾度この姿を目にしたのか。
叶 は咲蘭 の首筋に顔を寄せる。
今は顔を見られたくなかった。
「……あなたは何故ここに? 寝酒なら紫雨 でもよかったでしょう?」
咲蘭 が再び息を詰める。
叶 は咲蘭 の首筋から耳元へと、その口唇で辿る。
ねぇ、と咲蘭 に尋ねるそれは、まるで。
「……さくら…ん…?」
まるで吐息のような声を、咲蘭 の耳に吹き込む。
先程吐き出した言葉のあまりの不甲斐なさをごまかすかのように、叶 は咲蘭 の耳朶を、自身が持つ牙で軽く食んだ。
「……ぁ」
今まで聞いたことがない咲蘭の 声。
叶 は自分の血流が速く駆け巡るのを感じていた。
ともだちにシェアしよう!