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第7話 仔鹿二匹目
助けた小動物は仔トナカイだった。
泥だらけの小さな鹿体を洗ってやったらはっきりした。真っ黒な毛並み。乾燥させたらワタゲみたいにふわふわになった。黒綿毛である。
あっちにもこっちにも、ふわふわしいのがペチカの前をころころ転がってじゃれ合ってるから、オッサン大層悶えた。あああ可愛くねえかこれええええ
「すまんかったレヴン!」
ほのぼの光景の中、血相変えて家に飛び込んできたのはマクタヌンだ。
黒綿毛がマクタヌンの家のやつだってホラナが言うので、オロンと二鹿、手を繋いでツリーハウスまで呼びに行ってもらっていたのだ。
ちなみにホラナはムキムキ逞しい雄鹿に成長した。もうあのスラッとした体躯の美青年はどこにもいない。胸筋逞しい雄なのに顔だけはオキレイなベビーフェイスという矛盾を抱えた容姿に変貌した。
オッサンは魔法動物の生態よく知らねえけど、ありゃねえと思うわ。
オロンは逆にはしゃいで、「ホラナちゃんカッコイイ大好き抱いて!」って益々ラブラブになってる。あれもねえわ。オロンのやつ、抱かれる度に綺麗になっていくんだ。出産したとは思えねえ体型してるし。見た目20代のままだぞ。どうなってんだ魔法動物。
まあ、リア充放っておいて黒綿毛のこった。
「居なくなって皆探してたんだ。しかし、まさか、沼地に行くとは…! モウネ!」
「ひ────っ!!」
マクタヌンの迫力に脅えて、黒綿毛モウネちゃんたら鹿頭下げて平身低頭。突き上げた尻が、ぷるぷる震えてる。がんわいいいいい。しかも震える黒綿毛に寄り添って鹿頭をなでなで撫でてあげてるのが、うちの白綿毛だ。うちの仔もがんわいいいいあああ何あれダブルバンビ! バンビがバンビーノでババンがバンだ! おっさん言語崩壊するほどの可愛さよ…!
「まあまあ、こうして無事だったことだし大目に見てやれよお」
俺、ご機嫌にこにこ笑顔でマクタヌンに言う。
「レヴン、まじで世話んなった。これ、うちのが作ったやつだ。食ってくれ」
「わお。女将さんの手料理大好きだ。サンキューな」
最近、ホラナが家に寄り付かなくなってよーお。
ワタゲが大きくなるにつれ、ホラナはマクタヌンところへ働きに出るようになって、下っ端からコツコツ雑事をこなしていたら如何にも貧弱だった鹿体が今じゃムキムキだ。
最近じゃ多頭ソリのリーダーになったらしく、マクタヌンちでもしっかりと稼ぎ頭になっている。
働くのはいいが、家の中が一人暮らしオッサンの雑な家事状態に戻ってしまった。
料理も保存食とかの冷や飯が多い。ワタゲの離乳食あたりはオロンも料理覚えて頑張ってたんだが、色ボケ夫婦は基本一緒に居たがるのでだんだんと子離れしてきたのが現状だ。
だから温かい手料理は大変助かる。
ほかほかミートボールの匂いがする。中に卵が入っているという。最強だな。
他にも貰った総菜たち。鰯のマリネと、わらび炒めと、食卓に並べて早速、食おう。
黒綿毛モウネちゃんはマクタヌンの小脇に抱えられて帰ってしまった。
白綿毛なワタゲは帰った方向を窓から覗き見て「ぇふぇー」と鳴いていた。
涙は零しちゃいないが寂しそうだ。
「ワタゲ、明日はマクタヌンとこに食器返しに行くんだ。一緒に行くか?」
「────! うん! モウネに、また会える?」
「ああ。きっと会えるさ。友達になったんだもんな」
「ともだち違うよ。れヴんぶんと一緒だよ。恋人なんだ」
胸張って言うワタゲがなんか急に大人びたこと言ったぞ。オッサン理解が追いつかないぞ。
あと、れヴんぶんてなんだ。オッサンの名前を本当に愉快なことにしやがって…。
「んあーと、モウネちゃんと恋人になったってことかあ? 手が早えなワタゲえ」
「まだ手は出してないもーん」
そんなこと言ってミートボールを木のフォークでブッ刺すおめーは獲物を狙う肉食獣ぽいぞ。野生だと草食動物な鹿のくせに、魔法動物だとガルルッと肉食になるのどうしてなんだろうな。
「あー唇までにしておけよ」
と、オッサン早くも真面目に考えること放棄。
貰ったワインで口の中を渋みと酸味で潤した。ん~マイルドぉ。
「もちろんだよ。れヴんぶんにも口しかしてないだろお」
ワタゲ、またおかしいこと言ってるぞ。
オッサンの唇は誰にも奪われた覚えはないぞ。
なんのこっちゃいと眉を顰めてると、ワタゲはにんまり口端を上げて、「れヴんぶん、寝てるとき、むぼーびなんだもん」と、それはそれは嬉しそうに笑う。
その笑い方が仔供らしくなく妖艶だったとか、オロンそっくりだとか、そんなこと頭の片隅で思ったけど、度数の強い蒸留酒を煽って打ち消した。
これ以上考えたらオッサンのひ弱な脳みそがパンクする。
ただでさえ脳筋と言われてるんだからな。許容量以上の非常識はいらんのだ。
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