9 / 11
第9話 お祝いクリーム
ワタゲが『単独ソリ曳き免許』を取得した。
これで、フリーのサンタと組んでお空を翔けれるぞと言ったら、「レヴンと組む!」と真っ先に腕を組まれた。
一応オロンという相棒がいるので、もう少し大きくなったらな~と躱しておいた。
「えー!」とむくれちゃいたが……その顔、可愛いからオッサンには逆効果だぞ。
お祝いにと、カスタードクリーム入りブルーベリーパイをホラン父ちゃんが焼いた。
オロン母ちゃんもパンケーキを沢山焼いて、その上にベリー四種のホイップクリームをもりもり極盛りにした。さらに砕いた木の実やチョコレートソースをかける。
家中に甘い匂いが漂い、待ちきれない俺は既に手酌をしている。
甘いお菓子が焼き上がった頃に、黒鹿のモウネちゃんがやって来た。仔鹿だったモウネも今やスラリと背が伸び青年姿をしている。
ワタゲとお付き合いしてるらしい。時折一緒に出掛けるのを微笑ましく見守ってるオッサンは今年で五十路を迎えた。迎えてしまった。
「んー、おいひい」
「ホラナはお菓子も作れるのか」
ワタゲとモウネがブルーベリーパイを食べている。
ワタゲは口いっぱいに頬張るものだから口端からカスタードクリームが零れている。
手にも零して自分でぺろぺろ舐めている始末だ。
対称的にモウネの食べ方は上品だ。食べやすい大きさに切っては口に運んでいる。それでも唇についてしまったクリームがあるようで、時折に舌をちろっと出して舐めている。
「母ちゃんのも食べておくれよお」
「美味しいよ! パンケーキ大好きい」
ワタゲ、三段にしたパンケーキを一気食い。
オロンに似て細身の体なのに、よくあんなに入るもんだ。
ベリー味のホイップクリームはピンク色していて、一気食いの影響か鼻や頬にまでクリームがついている。
あーあー、さすがにこりゃあ拭いてやらねえと。
拭くものが見当たらなかったので指でとってやることにした。
「ワタゲぇ、クリームつけまくりだぞ」
ワタゲの傍まで行って指腹で摘まんで鼻についたクリームを取ってやる。
取ったクリームを舐めたら甘かった。いつも以上に砂糖入れたなオロンのやつ。
頬についてるクリームも取ってやろうとして気づいた。
ワタゲがこっちを見てる。潤んだ瞳で。頬だって赤い。
なんだってそんな可愛い顔で見つめてきてんだ?
オッサンときめいちゃうだろうが。
「仕方ねえやつだな」
「ふぁ……っ」
ちょっと冷たい頬に唇をくっつけて、クリームをベロリと舐め取ってやる。
ついでに、福福しいほっぺを唇ではむはむ食べてやったのは、まあ、気の迷いだ。
ちゅううっと吸い上げて、ぽんっと放す。
ワタゲの様子を窺う。
嬉しそうにはにかんでいる。
「えへへ~」とか言って俺が吸いついたほっぺに手をやっている。その仕草が…!
だから可愛いかよおおおお
俺の心がシャウト悶えてる。
モウネがこちらをじっと見つめてることに気づいた。
おいおい、フォークを口に咥えたままでベリークリームが口から垂れ落ちてるぞ。
こっちもしょうがない仔かよ。
「モウネちゃん、クリーム垂れてんぞ」
「え? あ、あ、うん」
俺の指摘に、まるで今気づきましたという風に目が泳ぎ、モウネは舌出して口周りを舐めている。ぺろぺろ。赤いちっちゃな舌がクリームを掬い取っているだけなのに、なんだか扇情的だな。オッサンなぜかムラムラしてきた。
これはずっと目にしてたらあかんと思ったので、モウネに背を向けてトイレに逃げたんだが、そのことでモウネは傷ついていたらしい。
「レヴン…」
小さな声で俺を呼ぶモウネ。
トイレから出て来たオッサンを待ち伏せしていたという。え、なんで?
「どうしたモウネ…っ」
いきなり胸にしがみつかれたんだが。ほんと、どうした?
「レヴン、レヴンは…俺のこと、子供にしか見えないかもだけど、でも俺、俺はレヴンのこと…!」
あああーーと、これはもしやあああ
敏いオッサンは気づいてしまった。モウネの告白に。
勇気を振り絞って俺の胸に抱きつき顔を上げ、潤んだ瞳でそんなこと、美しい容姿の青年から言われてみんさい。滾るから。
ともだちにシェアしよう!