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初めてのキス 3

 次の週に教えに行った時、部屋に入った瞬間に彼が緊張しているのがわかった。彼は俺の目を見ないようにして、ベッドから机の方へ移動した。 「こんにちは裕二くん。さ、やろっか」 「う、うん……」  ギィッと音を立てて椅子に座る裕二くん。その背中は少し強張っている様に見える。俺はその背後に立って、肩越しにテキストを開いた。  ピク…と彼の肩が少し動く。それを確認して、彼の耳に顔を近づけた。 「裕二くん、どこまでやった?」  またピクリと動く肩。彼を見ると、顔も耳も赤くなっている。きっと、俺を意識している。ほらね、やっぱりキスをすると相手を意識してしまう。そして嬉しい事に、彼は男にキスをされた事を嫌だとは思ってないようだ。 『また、達哉先生にキスをされてしまうのだろうか』  そんな彼の心の声が聞こえてくる気がした。もし今日もキスをしたら、もし、その先をしたら、彼はどんな反応をするだろうか。俺は、彼の反応を見たくてしょうがない。そんな気持ちのまま、彼の隣の椅子へと腰を下ろした。  裕二くんはそこそこ頭が良い。少し教えれば、すぐに理解して問題を解いてくれる。得意なのは理数系。反対に現国や地理に弱い。現国なんて答えは問題をよく読めば全て書いてあると思うのに。 「普段小説とか読まないの?」 「そんなの読まないよ。漫画のが面白いし」 「じゃあ感想文とか苦手なタイプか」 「そうそう、すっげー苦手。そもそも読んで面白くないって感想しかねーもん」  裕二くんは緊張が解けたのか、また普段通りに戻った。シャーペンを器用にクルクルと回してパラパラとテキストを見ている。少し伏せた目には長い睫毛。肌だってぷるぷるだ。  高校生って、こんなに美味しそうだったっけ。彼に会うまで、高校一年生なんてガキだと思っていたのに。  またキスしようかなと顔を近づけると、コンコンとノックの音が響いた。 「柏原先生、良かったらお菓子どうぞ」  彼の母親がお盆をローテーブルに置いた。色んな種類のファミリーパックのお菓子が個別包装で丸い入れ物に綺麗に並ぶ。カチャリと音を立てて、高そうなティーカップに入った紅茶が置かれ、俺はローテーブルの前に座った。 「お母さん、またこのお菓子〜? ポテチとかが良い」 「それは裕二の好みでしょ。そんなの出せないわよ」  可愛い系の母親と美形な息子。裕福な家庭。父親は美形なのだろうか。 「俺、このクッキー好きなんですよ。チョコレートのやつ」  俺は丸い入れ物からクッキーをひとつ取る。 「嬉しい。そうなんですよ、私も好きで…」 「お母さん、もう部屋出てってよ。もうすぐ時間だろ」 「あ、ごめんなさいね。じゃあ先生、宜しくお願いします。私、ちょっと町内会で行かなきゃならなくて…」 「はい。わかりました」  母親は嬉しそうに手を振ってドアを閉めた。裕二くんは「早く行ってよ!」と照れ臭そうだ。 「お母さん、達哉先生がイケメンだから喋りたいんだよ…本当恥ずい…」 「ふぅん…イケメンねぇ…。裕二くんもかっこいいのに」 「俺ェ? かっこよくねーよ。達哉先生のがかっこいい…」  美形に褒められるのは悪くない。というか、彼に褒められるのは嬉しい。しかし、男に素直にかっこいいと言うなんて、もしかしてこの子の恋愛対象は男なのだろうか。 「裕二くん、好きな子は今いないんだよね? 前は? どんな子が好きだったの」 「え……好きな子…いたことない。そういうの、よくわかんねーもん…」  キィッと椅子の音を立てて、裕二くんは机に向かった。俺はすぐに立ち上がって、彼の耳元に顔を近づけた。 「男は、恋愛対象になる?」 「お、とこ…?」 「恋愛するのは男と女だけじゃないよ。同性同士だってある。君は、どっち? どっちも?」 「だから…よくわかんねーって…ン…ンン…」  可愛い顔が目の前にあるのが我慢できなくて、彼の唇を塞いだ。  瑞々しい果実の様にぷるんとした唇。それを味わう様に自分の唇で覆った。舌を絡めなくても、十分興奮する。 「達哉先生…ちょっと…」 「俺にキスされるの、嫌?」 「嫌じゃない…けど…」 「……こっち来て」 「え……」

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