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子羊ちゃんは狼の家へ 1
土曜日。天気は生憎の曇り空で新緑の瑞々しい空気も少し湿っている。だけど俺の心は晴れやか。最寄駅まで彼をウキウキで迎えに行くと、好みの子が視界に入った。
黒縁伊達メガネに、グレーの大きめなトレーナーと黒のスリムパンツ。くるぶしが見える様な丈に拘りを感じる。足元は黒のジャックパーセルか。中々センスが良い。
下を向いてるから顔が良くわからないが、スタイルが良くて可愛い子だ。裕二くんといい勝負。ああいう子もいいな。
「あ、達哉先生」
こっちを向いた好みの子。それは今日俺に初体験を奪われる裕二くんだった。いつも部屋で見る裕二くんの服装はもう少しダサめだから、ちょっと印象が違って驚く。
「お待たせ。オシャレな子だなって思ってたら裕二くんだったんだ」
「オシャレに見える? 全部安物なんだけど」
裕二くんは自分の服を引っ張って恥ずかしそうだ。いつも着ている服は母親が買ってきた服で、外に着ていくのは恥ずかしいから部屋着にしているらしい。
「お母さん変な英語のとか十字架のプリントとか買ってくるから、ちょっと困るんだよな。でも着ないは可哀想だし」
「でも俺、今日の服装好きだな。裕二くんオシャレだね」
裕二くんは俺の言葉に「ふーん…先生こっちのが好きなんだ」と顔が赤くなった。
「俺は服装とかよくわかんねーから、インスタでいい感じの人の服、真似してんの。名前…忘れたけど」
インスタとは今流行りの写真共有サイトのアプリことだ。最近の高校生はファッション誌よりもネットが主流らしい。俺はそういうアプリ系はあまり知らなくて、裕二くんに「本当に大学生?」と笑われた。
「先生と俺、服の系統似てるよな。シャツかトレーナーかの違いだけだし。でも先生のは高そう…」
高校の時、付き合っていた先輩が俺に似合うコーディネートを教えてくれた。安くても形の良いブランドや、色の組み合わせ。あの頃は、先輩の好みの男になりたかった。
──達哉はやっぱりカッコいいね。俺の自慢の恋人だよ。
言われる度に自信がついた。好きな人に愛されているということ。ずっとずっとそのままでいたかった。あの人の隣にいたかった。
何だか悲しくなってきた。やめよう。悲しかったことを思い出すのは。切り替え、切り替え。今は目の前の可愛い子とセックスを出来る喜びを噛み締めよう。
平常心を装って、裕二くんと並んで駅前を歩く。
ダメだ、顔がにやける。何故なら裕二くんが少し緊張しているのがわかるから。隣を歩いている彼は、俺の方も見ずに段々と無言になっていく。
「コンビニ行く?」
そう言うと下を向いていた裕二くんが反応して顔を上げた。眼鏡姿が可愛いなぁ。
「うーん、でも別に欲しいのねーし……」
「夜ご飯は一応用意したけど、デザートとかは買ってないから。ポテトチップスだけは買っといた」
「……何味?」
「ワサビ味」
「えーっ!? 先生趣味悪っ!」
なんでワサビ味チョイスすんの? 裕二くんはそう言いながら笑っている。
「じゃあオススメの味教えて。で、一緒に食べよう」
「いいよ。最近出たやつと定番の二つ買っていい?」
「帰るまでに二つも食べれる?」
「……っていい?」
声が小さくて聞き取れない。俺は彼に近づいてもう一回言ってとお願いした。
彼の口が耳元に近づく。周りの人に聞こえないように、俺だけに聞こえるような声。
「今日、達哉先生の家泊まってもいい?」
ドカーン。ダメだ。その破壊力に頭が爆発する。内緒話の様に俺に告げて、恥ずかしそうに笑う裕二くん。ダメだよ、反則。何なんだこの生物は。早く挿れたい。
だけど家庭教師の家に泊まるとか、親御さんからの信頼がゼロになるのではないか。いや同性だけど、まだ授業を五回もしていないのに泊まる仲は不自然じゃないか?
「友達の家に泊まるかもって言ったから平気。一ヶ月に一回だけならお泊まりしていいって」
「ふーん。でもそんなこと言って大丈夫?」
「何が?」今度は俺が彼の耳に近づく。
「君に朝までやらしいこと、いっぱいしちゃうよ?」
彼の耳元を手で隠して、ぺろっと舐めた。
「ひぁっ♡せ、せんせぇ…」
顔が真っ赤になる裕二くん。予想通りの反応に俺は笑顔になる。
「さ、お菓子買おう。食べる暇ないかもしれないけど」
顔の赤さを悟られない様に俯いて入店する裕二くん。この子が数時間後、俺の名前を呼んでしがみつく。早く見たい、彼の乱れる姿や気持ち良さで泣く顔を。セックスに対して、こんなにワクワクするの久しぶりかもしれない。
コンビニで適当に買い物をして、五分もしないうちに俺の住むマンションに着く。オートロックは無しの三階。狭いエレベーターのドアが開いて、一番奥の部屋へと歩く。
「狭いけど、どうぞ」
「お邪魔します……」
可愛い子羊ちゃん、ようこそ狼の部屋へ。
美味しそうな身体に、涎を垂らして沢山むしゃぶりついてあげる。
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