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狼と子羊ちゃん 1

 窓ガラスを通じて雨が降りしきる音が響いている。あのまま玄関でセックスしたい本能を理性で押さえ込み、裕二くんを部屋に上げ、まずタオルを渡した。大きなバスタオルで頭を拭く姿は本当に子犬みたいだ。ふかふかの白いバスタオルの隙間から、可愛い目が俺を見つめている。 「そういえば裕二くんがこの部屋に来るの、初めて泊まった日以来だね」  ベッドに腰掛ける彼の横へ座り、彼の頭の上にかかっているバスタオルで髪をわしゃわしゃと拭いてあげた。 「……俺はもっと来たかった」  タオルの隙間から、裕二くんの声がボソッと聞こえる。髪を拭き終わったタオルを彼の肩にかけると、少し剥れた顔の裕二くんがいた。 「どうして? ゲームとか何もないし、つまらないだろ」 「セックスの時、俺声大きいから…ここなら家より気にしなくていいじゃん」  裕二くんは感じやすいからなぁと笑うと、彼は更にむくれた顔になった。本人は怒っているつもりなんだろうが、少し唇を突き出した顔は愛しくてしょうがない。 「だから俺は部屋よりここがいいのに、先生いつも用事があるって言うから……なのにakiさんは簡単に家に行ってるし……」 「……俺が君を家に呼ばなかったのはさ、可愛くて帰したくなくなるからだよ。誰も止める人がいないから、ずっと引き止めちゃいそうでさ」 「……本当?」 「もし君のお母さんにバレたら、怪しまれて家庭教師もクビになるかもしれないしね。そしたら君に会えなくなる…」  家庭教師のうちは、君に会える。でももし俺が辞めた時、君が変わらず俺と会ってくれるか不安だった。そう伝えると裕二くんは「ふはっ」と吹き出した。 「今の話面白い?」 「ごめん。先生って生徒にキスとかセックスする大胆さはあるのに、そういうところで悩むんだって。大体嫌だったらキスもセックス、何回もしねーし、先生になら引き止めて欲しいよ」  セフレばかりの時期があったからだろうか。そんな簡単なことを今更思い出す。好きな人じゃないとキスもセックスもしない。俺も高校生の時はそうだったのに。 「先生が家庭教師辞めても会うの当たり前だけど、俺は家庭教師はずっと先生がいい。成績も上がってお母さんも喜んでるし」  笑顔を見せてくれた後、裕二くんはクシャミをした。そうだ、とりあえず着替えさせないと。このままだと風邪をひいてしまう。  俺は衣装ケースから慌てて洗濯済みのパジャマを取り出す。彼の初めての日に着せたやつだ。 「とりあえずお風呂のお湯溜めてるから、その間それに着替えなよ」  時計を見ると、時刻は十九時半。お風呂に入れてあげたら二十時を回るし、明日はまだ平日。遅くなると親御さんが心配するし、今日は早く家に帰してあげないと。 「先生、俺今日泊まってく」  そりゃ俺も泊まっていって欲しいが、それは流石に…… 「ダメだよ、明日学校あるだろ。二十一時までには家に送るよ」 「……それだと先生とセックス出来ねーじゃん。先生、俺セックスしてくれなきゃ許さないって言ったよな」 「それは…そうだけど。でも急に泊まるなんて言って、お母さん心配しないの?」 「お母さんには誠の家に泊まるって言ったし、制服も持ってきたよ」 「誠って…あの自転車で送ってくれた子?」  裕二くんはこくりと頷いた。頭の中であの二人乗りが再生される。 「ふーん。やっぱり仲良いんだね。妬けちゃうな」  俺の言葉に裕二くんは怪訝な顔をして「誠とか無い無い、絶対無い」と言い切った。 「あいつ彼女いるし、男は恋愛対象じゃねーよ」  まぁ、そうだとしてもこんなに可愛い君が近くにいたら彼女よりも好きになると思うけどな。ああ、これから不安で仕方がない。 「最近ずっと相談してたんだ。どうしたら先生が俺と付き合ってくれるかって」 「あの子に俺が好きって相談してたの?」 「うん……俺、最初は先生のことが好きってこともよくわかってなくて。でもセックスする度にどんどん先生を独り占めしたくなるから、この気持ち何だろうって。そしたら、それが好きってことだよって言われてさ。写真のことショックで相談したら、今すぐ部屋に押しかけろって」  誠くん、俺は君に対して嫉妬したことを謝りたい。まさか俺と裕二くんのキューピットになってくれていたとは。  しかし最近の子は同性愛に対して色々言ったりしないんだな。先輩もインスタとやらで同性愛者を告白しても変なことを言ってくる奴はほとんどいないと言っていた。さっきの俺の写真に対しても、チラッと見えたコメントは「彼氏イケメン」「ラブラブですね」と温かいものばかりだった。ごちゃごちゃ考えていた自分は何だか時代遅れだ。 「先生が恋愛は体験しなきゃわかんねーって言ってた意味、やっとわかった。本当に楽しいことも苦しいことも半々……」 「ごめんね。裕二くんが沢山楽しくなるように先生頑張るね」 「うん、俺もがんばる」 「でもいくら誠くんが彼女いるからって、裕二くんもあんまり他の人に触っちゃ嫌だよ」 「それ、先生が言う? akiさんとキスしたくせに……」 「裕二くん、もう俺も他の人とそういうことしないから」  チュ……と唇を触れ合わせると、裕二くんも同じようにキスを返してくれた。 「約束だよ。達哉先生、もっとキスいっぱいして……」  俺が再び顔を近づけたその瞬間、お風呂が沸く音がした。せっかく良い雰囲気だったのに、邪魔をされた気分だ。 「裕二くん、お風呂沸いたから入ってきて」 「もうお風呂いいよ…せんせーとこのままセックスしたい……」 「ダメ、風邪ひいちゃうよ。先生も一緒に入るから、浴室行こう」 「ん…♡」  俺の首の後ろに手を回した裕二くんを持ち上げて、そのまま脱衣所に連れて行く。沢山愛撫しながら服を脱がして、湯船に浸かる。  泡をつけて洗いっこしたり、湯船で沢山キスをする。そして段々と浴槽のお湯がちゃぷちゃぷと波打つ。 「んんっ♡先生…ここでセックスしたい…♡」 「ローションないからベッドまで我慢して」 「ボディソープはダメなの?」  出来ないことはないが、俺はローションの方が好き。裕二くんは「はーい」と聞き分けて、俺に抱きつく。首を愛撫しながら彼の硬くなった陰茎を手で扱いてあげると、身体をビクビクと揺らし始めた。 「はぁっ♡はぁっ♡先生ダメだよ、俺すぐイっちゃいそう…♡」 「ずっと我慢させてごめんね。先に一回出しちゃおう」 「んぁっ♡はぁっ♡はぁっ♡せんせっ…せんせぇっっ♡あ〜っ♡♡」  お風呂で一回イカせた後、そのままベッドへとなだれ込みたかったが、髪の毛が濡れたままだと風邪をひきそうだ。ドライヤーで髪を乾かしてあげてパジャマを渡すと「今からセックスするのに着るの?」と笑われた。それもそうか。だけど明るい部屋で二人で裸でいるのは結構恥ずかしいな。 「相変わらずあの匂いがする」  裕二くんは裸のまま、パジャマをスンスンと嗅いでいる。 「ああ、柔軟剤?」 「この柔軟剤、友達じゃなくて前付き合ってた人が置いてったの?」 「違うよ。俺、付き合った人は晶先輩しかいないから。本当に友達の置いていったやつ。もしかして、気にしてたの?」 「……先生と付き合う人、どんな人なのかなぁって…そしたらakiさんと仲良さそうにしてるし…写真に写ってるし…俺、本当に嫌だった…」  裕二くんはベッドに座った俺にギュウッと抱きつく。その度に顔がニヤついてしまう。前から素直に気持ちを言ってくれていたが、自分から抱きついてくることはあまりなかったから嬉しい。すぐに顔を近づけて彼にキスしてしまう。 「じゃあ今度柔軟剤買いに行こう。君の好きな匂いのにするよ」 「俺、達哉先生の匂いがいい」  俺と彼は五歳しか変わらないのだが、加齢臭でも出ているのだろうか。「俺、臭い?」と真剣な表情で訊くと「あははっ、違うよ」と返された。 「何か上手く言えねーけどいい匂いがする…先生の匂い沢山嗅ぎたい…」 「同じシャンプーの匂いじゃなくて?」 「違うよ、先生の匂い」 「……良いよ。いっぱい嗅がせてあげる」 「んん、ん…♡……あ、そうだ。先生、ちょっと待って」  このままセックスへなだれ込もうと思った俺を、裕二くんは制止して自分の鞄から何かを取り出した。

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