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第4話
そんな事が有り、雪明にとって源一郎は好みのタイプではあったが、苦手な部類に入ってしまった。惹かれそうだった想いに、雪明はピッタリと蓋を閉じた。
その苦手な源一郎が、雪まみれの姿で一人現れた。自分を頼る程、切羽詰まっていたのだろう。この悪天候だ、命にも関わる危険性もある。
「これ使って下さい」
タオルを手渡すと、源一郎はすぐさま顔を拭き始めた。
「あー、死ぬかと思った」
「そんなに凄いんですか?外は」
「ああ、50センチ先も見えない」
店には窓がないため外を見る事は出来ないが、ヒューヒュー、ゴゥゴゥと唸り声のような不気味な風音が耳に入る。
「とりあえず、二階行きましょう」
源一郎は大人しく雪明の後ろを着いてくる。
「へぇー、二階ってこうなってんだな。結構綺麗にしてるんじゃねえか」
物珍しそうに部屋を見渡している。
「広くはないですけどね。今、お風呂汲んでるんで少し待ってて下さい。コーヒーでいいですか?」
「ああ、悪いな」
珍しく源一郎の口からしおらしい言葉が出て、雪明は少し驚いた。それが顔に出ていたのか、源一郎は怪訝そうに雪明を見る。
「なんだよ」
「いえ、源さんが珍しくしおらしい事言ったと思って、少し驚きました」
素直に思った事を口にすると、源一郎はムッとしたように、
「世話になってんだから、それくらい思うだろ」
そう言って、雪明の黒髪を荒っぽくクシャリと掴んだ。
本人は撫でたつもりなのかもしれないが、それは撫でたというより髪を掴まれた感覚だった。
その仕草に少しドキリとすると、誤魔化すよう源一郎の手をやんわり払った。
「コーヒー淹れてきますから、座ってて下さい」
源一郎は言われた通り、革張りのソファに大きな体を沈めた。
(ゲイが嫌いなくせに)
なのに、頭を触られた事に雪明は動揺した。
マグカップにコーヒーを注ぐと、すっかり寛ぎテレビを見ている源一郎にコーヒーを手渡した。
「明日がピークみたいだな」
テレビの天気予報から目を離さず源一郎は言った。
「みたいですね。これより更に酷くなるって事ですか?」
「らしいな」
ほぼ同時にマグカップをテーブルに置くと、そのマグカップを源一郎がじっと見ているのに気付いた。色違いのペアのマグカップ。自分のはブルーで源一郎のはグリーンだ。
それは、こちらに来る前まで付き合っていた恋人の物だった。捨てられなかったわけではなく、ただ単に使えると思って取っておいた物だ。
見ればペアのマグカップだと分かるが、源一郎相手に言い訳するこもおかしな話だと思い何も言わなかった。
「お風呂、見てきます」
そう言って腰を上げた。
この密閉された空間に、源一郎と二人でいるはのは落ち着かない。
源一郎を見ると悔しいが、改めてタイプだと思ってしまうのだ。
お湯が出ている蛇口をぎゅっと、きつく閉めた。それは、自分の気持ちの蛇口を閉めるように。
カタカタと浴室の小窓が鳴って、少しぼうっとしていたのに気付き我に返った。
リビングに戻ると、
「お風呂どうぞ」
「ああ」
風呂場を案内すると、源一郎は雪明がまだいるのにも関わらず、上を脱ぎ始めた。あっという間に上半身裸になり、雪明は焦る。
「ちょ、ちょっと!まだ、俺いるから!」
「あ?」
源一郎は振り返ると、見事に割れた腹筋が目に入る。
「ああ……」
源一郎は雪明がゲイである事を思い出したのか、視線を上に向けた。
雪明はバスタオルを源一郎に投げつけると、慌ただしく脱衣所を出た。
(くそー……!いい体しやがって……!)
先程の源一郎の上半身が脳裏に焼きついている。
(あの体で抱かれたら……)
そんな思いが過ぎり、雪明は頭を大きく振った。
『俺はゲイが嫌いだ』
その言葉を思い出した途端、スンと気持ちが引いた。
(そうだ、あの人は俺が嫌いなんだ)
二人きりだといってどうこうなるわけがなく、勝手に動揺している自分が恥ずかしくなる。
時計を見ると、6時になろうとしていた。
こんな天候だと時間の感覚がなくなり、体内時計が狂ってくる。
「ご飯食べるかな?」
雪明は冷蔵庫を開けると、中を物色し始めた。
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