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第5話

「はあー、生き返った」 そんなオヤジ臭いセリフを吐きながら源一郎が風呂から戻って来た。先程の雪明のリアクションを見て、さすがに今はTシャツを着用していた。 部屋は半袖で居られる程暖かくしている。外が寒い分、中の気温を高くしているのだ。 「オヤジくさ……」 「うるせー……いい匂いだな」 「お腹空いてますか?ご飯食べますよね?」 「ああ、貰う」 「鍋でいいですか?」 「いいな、鍋」 ドカリとソファに腰を下ろすと、ガシガシと濡れた髪をタオルで拭いている。 「あっ、風呂場の小窓、あれもう少し補強しといた方がいいぞ」 「え?危ないですか?」 「ああ、後でやってやるよ」 「……ありがとうございます」 「ぶっ!」 源一郎は何がツボだったのか、吹き出している。 「な、何笑ってるんですか……」 「珍しくしおらしい事言ってるから、ウケた」 さっきのお返しのつもりなのか、源一郎はそう言って笑っている。 (くそっ……!) 雪明の顔が熱くなる。 コンロをセットし、土鍋を置いた。 「何鍋?」 「ミルフィーユ鍋」 「なんだそりゃ?」 「知りません?」 そう言って土鍋を蓋を開けた。 「おおー、なんだこりゃ」 源一郎は物珍しそうに、覗き込んでいる。 「豚肉を白菜で挟んでるんです」 「美味そうじゃん」 源一郎は嬉しそうに、子供のような笑みを雪明に向けた。 ドキリと雪明の心臓が鳴る。 「ビール飲みてぇな。あるならくれよ」 そんな図々しい言葉を聞き、一瞬にして源一郎へのときめいた気持ちが遠のいていく。 「ありますけど……」 冷蔵庫から冷えたビールを持ってくると、源一郎に手渡した。 「頂きます」 源一郎はきっちり手を合わせると、鍋に箸を入れた。 その仕草は、強面な源一郎からは意外で一瞬雪明は動きが止まった。 「あ、うめぇ」 「そ、そうですか、それは良かったです」 源一郎はビールのプルタブを開けると、一気に飲み干している。 (結構、いい人ではあるんだよな……ただ、ゲイが嫌いなだけで) 気持ち悪いと言われた時を思い出すと酷く落ち込むが、気持ち悪いと言いつつも、こうして自分が作った物を口にしてくれる。 ガテン系らしい食いっぷりで、ガツガツと鍋の中身が減っていく。 鍋の中身がなくなると、 「美味かった、ごっそさん」 そう言ってまた、手を合わせた。 「他のお酒飲みます?この前、お客さんにお土産でいい日本酒もらったんです」 「たまにいいな、日本酒」 「源さんは何でも飲むんですね」 「美味いものならなんでもいい」 日本酒とお猪口を用意すると、 「俺、風呂入ってくるんで、飲んでて下さい」 「ああ、勝手にやってる」 湯船に浸かりながら、源一郎と二人きりのこの状況に思いを巡らした。 (ここまで源さんと話すの始めてだな……) 端々に憎まれ口は叩かれるが、それは全然許容範囲だ。 (あの人、俺がゲイなの忘れてる?) それならそれで、いいのかもしれない。 カタカタと風呂場の小窓が鳴った。 (源さんに補強してもらわないと) リビングに戻ると、源一郎の広い背中が目に入る。 「源さん、風呂場の小窓の補強……」 源一郎の隣に腰を下ろし源一郎を見ると、完全に目が据わっていた。 「あ!」 テーブルに置いてある日本酒を手に取る。たった30分足らずで、既に半分までに減っていた。 「嘘でしょ⁈俺、まだ飲んでないのに!」 「これ美味いな」 「信じられない……!これ、わざわざナカさんに頼んで買ってきてもらったんですよ⁉︎」 東北に出張に行くという常連客に頼んで買ってきてもらった物で、雪明はこれを飲むのを楽しみしていたのだ。 「そうケチケチすんなって」 悪びれる様子もなく、そう言ってお猪口の日本酒を口にしている。そのふてぶてしい態度に雪明はムッとすると、源一郎の肩を思い切り叩いた。 「悪い、悪い、そう怒るなよ」 源一郎は雪明の肩に腕を回すと、 「美人が台無しだぞ」 耳元で脳に響く低い声でそう呟かれ、下半身がずくりと疼いた。 雪明は下半身の疼きを誤魔化すように、源一郎の顔面を手で覆うと強く押した。 「た、楽しみにしてたんですよ」 「悪かったよ。ほら、まだ少し残ってるから」 源一郎はそう言ってお猪口に日本酒を注ぎ、それを雪明に手渡した。 結局その日、雪明と源一郎は朝まで飲み明かした。

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