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第7話

二日酔いである為、二人はダラダラと過ごしていた。衛星放送の映画を見たり、たわいのない会話を交わした。正直、源一郎といるこの空間が居心地が良かった。 不意にテーブルに置かれた雪明の携帯が鳴った。 着信を見ると、『父』の名前。携帯を取ったものの、出ようか無視するか悩んでいると、 「出ねーの?」 源一郎が怪訝そうな顔を浮かべ、そう問われた。 「出ます……」 仕方なく通話ボタンをタップした。 「もしもし……」 『雪明?そっち、大丈夫か?』 久し振りに聞く父親の声。少ししゃがれた、聞き慣れた声だったが、酷くホッとした。 『そっち地方のニュース流れてて、かなり凄い低気圧みたいだな。対策とかちゃんとやってるのか?大丈夫なのか?』 「うん、芳雄叔父さんとお店のお客さんが色々してくれてたから、大丈夫だよ」 『そうか、一人で大丈夫か?』 そう父親に言われ、チラリと源一郎に視線を向けた。源一郎はタバコを片手に、衛星放送の映画に見ているようだ。だが、きっと聞き耳は立てているのだろう。 「知り合いが……一緒にいてくれてるから大丈夫」 『地元の人か?』 「うん」 『じゃあ、安心だな。ろくに雪も知らないおまえより、余程こういう事には慣れてるだろうから。何か必要な物とかあったら、遠慮なく言えよ』 「ありがとう……あの……」 母さんは元気?そう聞こうと思ったが、その言葉は出る事はなかった。 「芳雄叔父さんもお客さんたちも良くしてくれてるから、心配しないで」 『そうか……いつでも帰ってきていいんだからな』 父親のその言葉に、鼻の奥がツンとなり涙が出そうになった。きっと、源一郎がいなければ泣いていただろう。 電話を切ると、「すいません」そう一言源一郎に言った。 「親父さんか?」 「はい、この辺りのニュース流れたみたいで」 源一郎の隣に腰を下ろすと、膝を抱えた。 「確か、親と仲違いしたって聞いたけど、上手くやってんじゃねえか」 叔父の芳雄から聞いたのだろう。 「父は優しい人なので……なんで仲違いしたかって聞きました?」 「いや、そこまで」 「自分はゲイで、女の人と結婚はできないって言ったんです」 源一郎は表情を変える事なく、雪明の言葉の続きを待っている。 「親戚含め、うちって結構みんなエリートで、公務員だったり弁護士だったり、安定した仕事に就いてるんです。俺も、会計士の資格取ってわりと大手の会計事務所に就職したんです。一年くらい前、見合い話持ってこられて……最初はやんわり断ってたんですけど、母親が余りにしつこいので言っちゃったんです、『俺は男しか好きになれない』って。そしたら母親が怒り狂って……それから、汚い物を見るような目で自分を見るようになりました」 あの時のことを思い出し、雪明は苦笑を浮かべた。 不意に源一郎は、雪明のマグカップと自分のマグカップを手に取ると立ち上がった。キッチンに行くと、またマグカップを手に戻ってきた。 「ん」 雪明はマグカップを渡されると、そのコーヒーに口を付けた。 「続けろよ」 先を促され、雪明はカップを手にしたまま言葉を選ぶ。 「さすがにその目に耐えられなくなって、家出したんです。その当時、付き合ってた恋人の所に転がり込んで、しばらくはそこで暮らしてました」 源一郎の右の眉がピクリと動いたのが分かった。 「その時、芳雄叔父さんから電話があって……芳雄叔父さんは父の弟なんですけど、ほら、エリート一家なのに芳雄叔父さんも飲み屋のバーテンなんてしてるから、叔父さんも平野家のはみ出し者の立場だから俺の気持ち、分かってくれたんでしょうね。父もきっと、叔父さんなら話分かってくれると思って、叔父さんに相談したんだと思うんです。それで叔父さんが、良かったらうちに来いって言ってくれて……で、ここにいるってわけです」 「その後、お袋さんとは?」 「母とは家を出たきり話していません。弟がいるので、今は弟に期待してるんじゃないんですかね。飲み屋でなんか自分に勤まるのかと思いましたけど、楽しいし案外向いてるのかもしれません。みんな、いい人ですしね」 にこりと源一郎に笑みを向けると、源一郎は気恥ずかしそうに顔を背けた。 「で、その時付き合ってた男とはどうなったんだよ」 視線を逸らしたまま、源一郎の意外な質問に雪明は思わず源一郎を凝視した。 「気になります?」 そう言った瞬間、源一郎は顔を真っ赤にし、 「な⁈べ、別に気になんか!」 必死に取り繕う源一郎がおかしくて、雪明は笑ってしまう。 「こっち来る時別れました。遠恋なんて無理ですから」 「そうかよ」 源一郎は荒っぽくタバコを掴むと、火を点けた。 「戻りたいとか思わないのか?」 「思いませんね」 思いのほか、雪明の即答に源一郎は面食らっているようだ。 「母親に会いたくてないっていうより、この仕事が……ここの人たちが好きなんです。みんな暖かくて優しくて……俺がゲイだって言っても普通に接してくれるし……」 源一郎もゲイは嫌いと言いながらも、こうして二人でいる事に抵抗はないように思えた。ゲイを嫌う理由がきっと何かあるのかもしれない、そう思った。

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