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第5話

スイミングというと、もっとバシャバシャに泳いでクタクタに疲れるものだと思っていたが永瀬の用意したレッスン内容は水の中でできるという簡単なエクササイズだった。 里都の目的は『泳ぐ』事ではなく、『体型維持』。 それを考慮したメニューにしてくれたのだろう。 あまりにもハードだったらどうしようと少し心配していたが、これくらいの内容なら家のことを怠らずに無理せず続けられそうだと思った。 レッスン時間はあっという間に過ぎ、終了を告げるホイッスルが響く。 「それではプールから上がってください」 永瀬の指示通りプールから出ようとタラップに足を掛けると、突然背中のあたりに何かがぶつかってきた。 振り向くと、一緒に永瀬のレッスンを受けていた田中がニヤけた顔で里都を見上げている。 またか… 里都は思わず眉を顰めた。 「あっと、ごめんね里都ちゃん」 謝ってはいるものの、その顔に反省の色は全くない。 「…いいえ」 内心イラついていたが、里都はなるべく平静を装って返事をした。 この田中という男、さっきから妙に里都の身体に触れてきたり当たったりしてくるのだ。 最初は偶然かと思っていた。 ふらつくのは慣れないプールの中でうまくバランスが取れないせいだと思っていた。 が、その偶然があまりにも多すぎるため、それが故意にやっていると気づいたのだ。 しかし、今日大事な初日。 揉め事は避けたいので何とか我慢していた。 それにこの男と一緒なのは今日だけだ。 今日を我慢さえすればあとはもう関わることはないだろう。 里都はそう自分に言い聞かせて、田中の嫌がらせをなるべく気にしないようにしていたのだ。 「お疲れ様でした。それでは今日の体験レッスンはこれで終わりです。もしもレッスンの継続をご希望でしたらいつでも気軽に連絡してくださいね」 永瀬は二人にそう言うと、爽やかな笑顔を見せた。 考えなくても里都の心はもう決まっている。 永瀬はいいコーチだ。 これならちゃんと続けることができる、里都はそう確信していた。 帰ったら早速飛鳥彦に報告をしよう。 彼は何と言うだろうか。 「頑張ったね」と褒めてくれるだろうか。 目元に沢山皺のあるあの優しい眼差しで。 うきうきと心を躍らせながら、里都は更衣室の隣にあるシャワーブースへと入った。 帰りに駅前のスーパーで買い物をして帰ろう。 里都にスイミングを勧めてくれたあの主夫仲間にお礼でも買っていこうか。 そんな事を考えていると、ふと背後に気配を感じた。 振り返らなくてもそれが誰だかわかってしまった里都はぐっと唇を噛み締めた。 せっかく清々しい気分だったのに、一気に台無しにされた気持ちになる。 「何ですか、さっきから」 ついに我慢できなくなった里都は不快感を口にした。 「まぁまぁ、そう怖い顔しないでよ。里都ちゃんってさ〜めちゃ色白いなぁと思って」 馴れ馴れしい呼び方にもいよいよ腹が立ち、里都は振り向くと田中をキッと睨みつけた。 しかし、男は少しも気にする様子もなく里都のいるシャワーブースへぐいぐいと入り込んでくる。 「ちょっと…!!入ってこないでください」 狭いシャワーブースに男二人はかなり狭い。 大きな身体を無理矢理ねじ込んできた田中に押されるように、里都はさらに奥へと追いやられてしまった。 これでは容易に逃げられない。 仕切りになっているカーテンを後ろ手でサッと引いた田中がニヤリと笑みを浮かべた。 「里都ちゃんてさ〜人妻なんでしょ?旦那さんってどんな人?」 馴れ馴れしいだけでなく、プライベートな事を平気で訊ねてくるなんて図々しいにもほどがある。 里都はあからさまに嫌悪を剥き出しにするときっぱりと告げた。 「田中さんに教える必要はありません」 「冷たいなぁ。かわいい顔してるのにもったいない。里都ちゃんてさ〜〜今まで遊んだ事ないでしょ?ちょっと俺と遊んでみない?」 「は?何言ってるんですか?」 「俺ってばわかっちゃうんだよね〜〜どうせ旦那に構ってもらってないからこういうとこに鬱憤晴らしにきてるんでしょ?たとえば…エッチしてもらってないとか?あ、それか〜〜満足するような回数してもらってないとか?」 田中の言葉に里都は不覚にもぎくりとしてしまった。 嘘でもいいから何か言い返さないとと思っているのに、いきなり図星を突かれてうまく言葉が出てこない。 すると、里都の表情に気づいた田中の顔が嬉しそうに歪んだ。 「あ、やっぱり図星?当たっちゃった?やっぱり旦那さんに満足してないんだ?里都ちゃんかわいそう〜〜」 油断していた隙に片手で腰を引き寄せられる。 知らない男の肌の感触に驚いた里都は思わず腕を振り上げて抵抗しようとした。 「やめっ…!!」 しかし、田中は里都の振り上げた腕を易々と受け止めるとそのまま片手で押さえつけてきた。 悔しい事にその腕はびくともしない。 「おっと、大きな声は出さないほうがいいよ?大丈夫、ちょっと触るだけだから、ね?」 田中はそう言うと、無防備になった里都の股間を濡れた水着の上から撫で上げてきた。

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