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第3話
俺は、それなりにお洒落に気を遣い美映留中央 駅に降り立った。
毎年、飾られるクリスマスツリー。
まぁ、綺麗といえば、綺麗だ。
でも、一人身の俺としてはありがたみはほぼ無いに等しい。
ああ、でも。
俺はなんで、いもしない架空の彼女のために、クリスマスイブにわざわざこんなところに来てるんだろう。
はぁ。
ため息が出る。
その答えは簡単だ。
春菜の顔が見たかった。
ただ、それだけ。
そう考えると、俺ってなんだか、みじめだな。
くそっ!
周りはカップルだらけ。
こいつら、イブの今夜、ひたすらセックスしまくりなんだろうな。
マジでいまいましい。
それに、春菜の顔を見るっていっても、あのカエデって女とセットだ。
彼女にデレデレ顔の春菜しか見れないってことだ。
そんな春菜を見ると俺はきっとイライラしそうだな。
ふぅ。
今日は帰るか。
ふと、手元を見る。
握りしめた、小さい箱。
中にはUFOキャッチャー限定のフィギュアが入っている。
俺は、バカか……。
あいつの為に、金をつぎ込んでゲットしたけど、プレゼントできるチャンスもない。
その時、後ろか誰かに声をかけられた。
「おい! 仁じゃないか!」
そこには、春菜の姿。
驚きのあまり、一瞬言葉を失う。
「なんだ、春菜か」
「なんだとは、言い草だな。ははは」
やばい。
やっぱり、こいつの笑顔を見ると、キュンキュンする。
それに、お洒落して、めちゃ可愛いんだが。
ドキドキが止まらねぇ。
ああ、これだけでも、来る価値はあったな。
春菜は、言った。
「仁、彼女と待ち合わせか?」
彼女?
しまった。俺は彼女とクリスマスデートをするって言っていたんだったっけ?
「あー。そう、そう。彼女と待ち合わせな」
春菜の視線が俺の手に向かう。
俺は、慌ててプレゼントの小箱をポケットに突っ込んだ。
「ははん。それ彼女へプレゼントか?」
「まっ、まぁな」
あれ?
こいつ、一人か?
例の彼女の姿が見当たらない。
俺がキョロキョロしていると、それを察したように春菜が言った。
「オレは、彼女にすっぽかされたみたいなんだよな」
「おいおい、今日はイブだぞ、そんなことって……」
ちょっと、待てよ。
それが本当なら、これは……。
「そっか、春菜もか。俺も、彼女にすっぽかされたみたいなんだよ」
ちらっと春菜を見る。
春菜は、顔を明るくして言った。
「おー! まじか! じゃあ、仁、振られたもの同士、メシでもいこうぜ!」
うおー! やばい、テンション上がる。
しかし、それを悟られないように落ち着いた声で返す。
「ああ、まぁ、仕方ない。春菜が行きたいっていうなら、付き合ってやってもいいぜ」
「よっしゃ! じゃあ行こうぜ!」
何、この神展開。
俺は、ウキウキを隠しながら、春菜の後に続いた。
ファミレスに入った。
込んでいたけど、少し待っただけで席に案内された。
とにもかくにも、これは、奇跡だ。
イブに春菜とメシとか。
春菜は、彼女にすっぽかされて、さぞ気落ちしているかと思いきや、意外や意外、本当に楽しそうだ。
俺に気を使っているのか?
それとも、あの彼女といるより俺と一緒にいる方が楽しいのか?
俺にしてみれば、どっちだって嬉しい。
俺達は、食事を終え、ドリンク片手に食後の余韻を楽しむ。
「でよ、仁。オレ、来年はレギュラー狙いたいわけよ」
「ああ、いけるって。お前ならな」
「いや、オレだって分かるぜ。上の先輩達の層が厚いって事はさ」
「まぁな。よし、来年そうそうにトレーニングメニュー考えてやるよ」
「待ってました! さすが仁だ。オレの専属コーチ!」
「ははは。でも、厳しいぜ。おれのメニューは」
「お手柔らかにたのむよ。ははは」
しかし……。
何ていう笑顔をするんだ。
こいつ、天使なんじゃないか!?
「ところで、春菜。よかったのか? 彼女、待ってれば来たんじゃないのか?」
「ああ、大丈夫。メールで連絡あったから。行けないって」
「そっか」
「それより、仁の方はどうなんだ?」
「俺か? 俺のほうは、まぁ、中止だな。いいよ! 俺の彼女のことなんかさ」
「そうか? ああ、そうだ。仁、もっと、話ししたくないか?」
「そりゃ、お前とだったら、夜どうしでも話ししたいけど。このままドリンクバーで朝までねばるか?」
「ちぃっ、ちぃっ、ちぃ! いいところあるんだよ!」
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