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第3話 怪しい店

「これは、図書館じゃないな」  いつも元気なルクトが明るく「いってきまーす!」と家を出て10分後、居ても立っても居られなくなったセオはルクトを追うことにした。  ルクトはセオより背が低い。そのせいだけではないだろうが、ルクトの足は遅かった。ゆっくりのんびり歩く恋人をセオは好きだったし、同じ歩幅で歩くことで発見できたこともある。  そう、いつもは通り過ぎていた駅前の本屋さんだったり、シュークリーム屋さんの横にある路地裏に住み着いている野良猫だったり、ルクトとゆっくり歩いたおかげで、セオは新しい風景を目にすることが出来たのだ。 「あ、いた」  そんなルクトを見つけるのに長い時間は掛からなかった。 「どこに向かってるんだ?」  数メートル離れて様子を見ているセオだが、携帯端末を何度も確認し、いつもとは違う方向へ向かうルクトに声を掛ける勇気はなかった。  そして、休憩を挟みながら何十分も歩くと、ルクトはとある店の前で立ち止まった。だだっ広い駐車場には高そうな車が停まっている。店の前に植えられた植物は真っ赤でクリスマスにぴったりだった。  近づきすぎれば、ついてきていたことがバレてしまう。だからこそ、道を渡って店の中を確認することなどできなかった。  セオは遠くからルクトが店へゆっくりと吸い込まれていくところを眺めるしかなかった。 「ルクトのやつ、なんであんな怪しい店に」  この店は怪しい店でもなく、単に輸入専門店なわけだが、混乱し焦りに焦っていたセオの目が、看板に書かれた文字を捉えることはなかった。 「最悪だ……」  この時、大きな勘違いをしたセオの頭には、外国の雰囲気を醸し出す豪華のお店へ、見知らぬ誰かに会いに行くルクトの姿が浮かんでいた。  もちろん、これは事実ではない。店内に入ったルクトは、見たこともない珍しい商品の数々に目を輝かせ、次はセオを連れてこようとワクワクしていたわけだから。  買い物かごでさえおしゃれな店の隅から隅まで、ルクトはじっくり観察し、携帯端末に書いた材料を手に取り、次へ次へと進んでいった。  みるみるうちに、買い物かごにはケーキの材料が入っていく。可愛いから、物珍しいから、セオが好きそうだからと、ケーキには関係ない商品もかごに入っていたのは言うまでもないだろう。     

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