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第4話 置き手紙

 ふらりふらりとセオの足は家へと向かっていた。体中の体温がさーっと冷えていく感覚に、ぼーっと何も考えられない頭が下向きのまま揺れる。 「うわき……?」  ルクトに限ってそんなことをする子ではない。それはセオが一番知っていることで、今まで一度も疑ったことなど一ミリもなかったのに、今日だけは特別なようだ。頭の中が「浮気」の二文字でいっぱいになっていた。 「どうしよ」  同棲しているルクトがこの家に帰ってくるのもそう遠い話ではないだろう。数分後かもしれないし、数時間後かもしれない。それはルクトが誰と何をやっているかで変わるのだろうけど。  最悪の状況しか考えられなくなったセオは、着替えを数着だけかばんに入れて、リビングのテーブルに手紙を残し家を後にした。  ルクトと話し合えばすぐにでも誤解は解けただろう。思い込みとは危険なもので、ショックと悲しさに溺れていたセオにはそんなことを考える余裕などこれっぽちもなかった。  そしてそれから30分後にルクトが帰宅した。  玄関先に飾られた写真には初めてのデートで撮ったツーショットが写されていて、靴を脱ぎながらそれを眺めるのがルクトの癖だった。幸せを感じ、そしてこれから先の未来にもあるであろう幸せを感じるのだ。  静かな廊下を歩くと恋人が不在であることに気づいた。 「あれ?セオいないの?」  買い物袋をルクトは急いでキッチンに隠した。料理をしないセオがこの戸棚を開くことはないだろう。  セオも外出したのだろうか。普段ならどこに向かうか連絡してくれる。携帯端末を見てもメッセージの一つも届いていなくて、余計寂しさが増していった。 「手紙?」  お茶を淹れたルクトはソファーに座った。目の前のテーブルに置かれた紙はチラシの裏側で、書かれた文字はセオのものだった。 『少し距離を置こう。俺は兄さんのところに泊まる。 会いに来ないでくれ。一人で考えたいんだ。 セオ』 「ええええええええええ?!」  予想外の展開にルクトは飛び上がった。手紙を握る手がフルフルと震える。まだ少し熱いお茶をごくごくと飲むと、舌の先を火傷しヒリヒリと痛みが広がった。 「なんで?なんで?なんでえええ?!」  ルクトには理由などこれっぽっちも分からなかった。

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