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第5話 もぬけの殻の日々
セオがいなくなってからのルクトはと言うと、これはもう目を向けられないほど消沈していた。
1日目は飲まず食わずで泣き続け、2日目は泣きながら2歳下の弟であるイーライに電話を掛けた。3日目になるとお腹が空いてきたものの、キッチンに立てばセオとの時間を思い出し、自然と涙があふれ出した。体内にどれだけ水分があるのだろうと、一人寂しく眠るマットレスの上で考えたこともあった。
セオが残したキスマークもこの頃には薄れ始めていた。無論、ルクトはこのことに気づいていなかったのだが。
4日目は、たしかイーライが訪れた日だ。電気もつけず、シャワーも入らず、大した食べ物も口にせずに数日間を過ごしてきた兄を見て、イーライはルクトを浴室に押し込んだ。
そこにだって、2人の思い出はあったけど、扉の向こうでしゃべり続ける弟の声でルクトは涙を流す暇などなかったのだ。
「これを喰え」と押し付けられたのは、栄養たっぷりの野菜スープだった。泣き続けたルクトの喉は干からびたサボテンのように痛かった。ぼったりと腫れた瞼を擦りながらスプーンを口に入れると、ほっこりと喉と心が温まっていく気がした。
5日目は家の掃除をした。泣きながら過ごした4日間で、驚くほど家が汚れてしまったのだ。部屋中に広がるゴミを片付けながら、もしかするともう戻ってこないかもしれないセオの物を捨ててしまおうかとも考えた。そこまで出来なかったのは、ルクトがセオを愛しているから。理由は分からないけど、いつか戻ってきてくれると信じて、捨てられなかった。
6日目にルクトはケーキを作ることにした。クリスマスは明日に迫っている。今日中に準備をして、明日セオに会えたら、とルクトは願った。会えるかどうか、いや、セオがルクトに会いたいかどうか、はまだ分からない。ケーキだけでも渡せれば大成功だと言い聞かせルクトは支度にとりかかった。
スポンジケーキ自体は問題なく作れた。何度も使ってきた同じレシピをルクトは愛用しているのだ。もちろん、牛乳の代わりにココナッツオイルを使ったりとアレンジはした。
乳製品を使わないクリームの作り方だって、後から考えればそう難しいものではなかったのだが、初めて何かをやるとなると人間戸惑うものである。ルクトも例外でなく、何度もレシピとにらめっこをした。
「ココナッツクリームを揺らさないように冷蔵庫から出す。分離した2層の内、上の白い部分だけを掬い出す……えっと、こうかな」
冷蔵庫で冷やしていたココナッツクリームの缶と、ボウルを取り出すとルクトは携帯端末を覗き込んだ。
「泡立てて6分立ちくらいになってから、粉砂糖か。よし!かき混ぜよ!」
泡立て器特有の機械音がキッチンに響いた。
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