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第6話 予期せぬ訪問者

 何も言わずに家に訪れ「泊めろ」と言い出したセオを兄は止めなかった。大変なことが起きたと顔に書いてあったから、初めの数日は何も言わずに兄弟水入らずなときを過ごした。  大人になってから初めて長い時間を一緒に過ごすと、新しいことを学べるものだと二人は思った。 「おいセオ、お前今夜予定ないんだろ?」 「ああ、特には」 「ルクトのとこに帰らないのか?」 「まだ、無理」  子供だな、と兄は笑った。一連の騒動を聞くと、どう考えてもセオの勘違いのような気がする。「恋人だ」と数か月前に紹介されたルクトが、弟に向けた眼差しは愛に満ちていた。いきなり浮気をするなんて、そんなような子には見えなかったのだ。  しかし、人間は時に過ちを犯す。それを知っていたからこそ弟の言葉をうやむやにすることはできなかった。  兄としてできるのは、意気消沈した弟を励ますこと。 「よし、クリスマスだし、特別に美味しい店に連れてってやる」  ささっと指で操作し予約を入れたのは馴染みの店だった。アルコールの種類も、料理の質も良いが、店長の人柄か居心地が良く、第二の我が家的な店なのだ。 「兄貴、何時に出る予定だ?」 「6時に予約入れたけど早めに出てぶらぶら買い物でもするか?」 「ああ、この恰好じゃ流石にマズい店か?」 「クリスマスだ、少しくらいいい恰好してけ」  兄の家には最低限必要な物だけを持って訪れた。当然その中によそ行きの洋服は混ざっていなかった。そんなものルクト以外と着る予定なんてなかったから。 「行くぞ」  車の鍵を指にかけた兄の足は玄関へと向いていた。 「は?今すぐか?」 「ここにいてもお前ぼーっと座ってるだけだろ。外の空気吸いに行くぞ」  バサッと音を立てて兄が投げたジャケットがセオの顔に当たった。咄嗟に出した右手が宙を舞う。「あぶねーな」とセオが口を開くと同時にドアベルが玄関に響いた。 「ん?セオ、宅配便でも待ってたか?」 「いや、何も頼んでないけど」 「誰だろ」  この時セオは特に何も気に留めていなかった。予定外に宅配便が来ることもあるだろう。近所の人がおすそ分けを届けに来たかもしれないし、兄の友人が突然遊びに来たのかもしれない。とにかくセオは「自分に関係ないことだ」と思い、自分の財布を取りに行ったのだった。 「え、キミ……」  兄がそう呟いた。薄っすらとしか開いていない扉の隙間からは、客人が誰だか分からない。  何を戸惑っているんだ、とセオは不思議に思い一歩二歩と玄関へ近づいた。 「すみません、あのセオいますか?」  それは、恋しくてたまらない恋人の可愛い声だった。    

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