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第7話 勘違い

「じゃー俺は出かけるから」 「あ、兄貴!」 「セオ、男だろ、頑張れ」  「頑張れ」とは、なんて無責任な言葉なんだろう。遠慮がちに立つルクトを目の前に、セオは焦っていた。心の準備なんて、これっぽちも出来てなかった。  ガシャンと音を立てて扉が閉まる。ハァーと大きなため息がセオの口から洩れた。それを聞いたルクトの肩がビクッと飛び跳ねる。  気まずい空気が二人を包んだ。  緊張したルクトは自分の足元を見つめることしかできない。  なぜセオが家を出ていったのか、なぜ距離を置きたがっているのか、自分は嫌われてしまったのか、そんなことが頭の中でグルグルと回り出したのだ。  セオは、自分より背の低いルクトの頭を見つめていた。顔を上げない理由は、自分の顔さえ見たくないからだろうか。それなら、ここまで来るはずはないのだが、浮気されたと思い込んでいるセオにはそれよりマシな理由など思いつかなかった。 「あ、あの……」  いつもより控えめなルクトの声がセオの耳に届く。この声が好きだった、と思い出し、他の人間もこの声を愛でたのかもしれないと心を痛めた。 「セオ、こ、これを渡したくて」 「ん……?」  未だに顔を上げられないルクトは両手でケーキの入った袋を突き出した。白色の紙袋に赤いリボン。通りすがりに見かけて一目ぼれした袋だった。  もちろん、この中には白色の紙箱が入っている。 「なにこれ?」 「……ケーキ」  この時セオは何も考えられなかった。  浮気をしたと思ったらケーキを渡しに来る。ルクトはいったい何がしたいと言うんだ。 「ルクト、お前さ」  紙袋をダイニングテーブルに置いたセオは、ソファーに腰を掛けた。兄のソファーは派手すぎて目が痛い。    遠慮がちにセオのあとを追ったルクトは部屋に一つしかない3人掛けソファーに座れないでいた。少し距離を置いて、セオの目の前に立つことが今の限界だ。  理由は分からないけど、怒らせてしまったようだから、油を火に注ぐような真似はしたくない。緊張で震える手を握ってルクトは立っていた。 「俺が家を出ていった日、他の男に会いに行っただろ」 「え?」  身に覚えのないことを訊かれてルクトは思わず顔を上げた。 「一人で出かけるって言うお前を追ったんだ。数週間前からこそこそ何かやってるし怪しいと思って。まさかお前が浮気するようなやつだとは思わなかったよ」  視線が合ったセオの瞳は悲しみと怒りに満ちていた。 「セオ、」 「いいんだ、もう」 「え……」

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