30 / 230
今度は俺の番(5)
“逃げ場にされたみたいで”だなんて、また変なことを考えてしまわないようにと、のどが渇いてもいないのに、酒を一気に流し込んだ。
半分くらい飲んだところで、空きっ腹に酒ばかりはよくないと飲むのをやめ、里田が持ってきた袋の中を漁る。けれど、食べ物は何も入っていなくて。つまみになる物くらい買ってこいよと苛々しながら立ち上がると、俺がどこかに行くと思ったんだろう、里田が咄嗟に俺の服を掴んだ。
「待って、」
「待っても何も、冷蔵庫の中を見に行くだけだし」
そう言うと、ほっとしたのか柔らかく微笑んだ。ほんの一瞬だけ。いつもの作られたものとは違う。嫌いじゃない笑顔。……たまにこうして笑うから、こういう顔を見せるから。だから、俺は。
「里田、離して。そんなに掴まれてたら動けないだろ」
「ねぇ、涼くん」
「何?」
「涼くんの言う通り、僕には君しかいなかったし、君しか必要なかった」
俺の服を掴む里田の手に力が入る。その手が少し震えているような気がして。じっと見つめれば里田の睫毛が揺れた。何だか今にも泣き出しそうな様子。さっきは笑っていたくせに、変なの。けれどそんなコイツを前にして、優しさをあげようとは思えない。
「……何だそれ、きもすぎ。ほんっと、意味分かんねぇ」
里田の手に自分のを重ねた。服から離そうと強く握って引っ張る。その分また、里田の力が強くなる。……どうしても離さないってか。
「だから分からなくていいって、ずっと言ってる。分からないままの方がいい。分かってほしくない」
ともだちにシェアしよう!